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第17章 過ち
僕は車までの短い距離を歩きながら、どうするべきかと必死で考えを巡らせた。
「さ、どうぞ」
「え?お話しするんですから、後ろじゃなくて助手席がいいです」
「そ、そうだね」
助手席のドアを開ける。
「わぁ。ドア開けてもらうなんて初めてです。トキさんて、やっぱり紳士ですね」
ことごとく裏目にでる自分を呪いたくなる。
「車のなか、いい匂いがします。これトキさんの匂いですか?」
「え?自分じゃ分からないけど、臭かったらごめん」
「ううん。いい匂いです」
キョロキョロと車内を見渡す頼子ちゃんに不安だけが募る。
自分の車の中で、こんなに落ち着かないのは初めてだった。
イグニッションを回しエンジンをかける。
「それじゃ家まで送るから、その間に話そうか」
「え?ほんとですか?うれしい。それじゃ、夕ごはん作るんで食べて行って下さい。一人暮らししてるんで、こうみえても料理得意なんです」
「い、いや、それは無理だよ。」
脇から冷や汗が伝う。
これじゃあ頼子ちゃんの思う壺だ。
どうしたらいい?
「どうしてですか?せっかくゆっくりお話ししてくれるって言ったのに」
「い。いや。そんなつもりで言ったんじゃない。ただ冷静に話そうって言っただけなんだ」
「私は冷静ですよ。トキさんの方がなんだか落ち着かないから、だからゆっくり話しましょうって言ってるんですよ」
駄目だ。抜け出せそうにない。
「と、とにかく駄目だ。家に送るだけだ。じゃなきゃ降りてくれ」
「...いいんですか?」
「な、なにが?」
「私が今ここで叫んでも。」
「え?」
「この人に変なことされましたって...」
「な?なにを言ってるんだ。僕は何もしてないよっ」
「でも私がそう言ったらそうなりますよね?」
「そ、そんなことは犯罪だよ」
「奥さんと娘さん、どう思かな~?」
「わ、わかった。...少しだけなら」
「ほんとですか?うれし~。今日は腕によりを掛けて作ります。トキさんなにが好きですか?あ。私以外ですよ。きゃっ、恥ずかしい~」
どうしてこうなってしまったんだろう。
何かを言えば言うほど深みにはまっていく気がする。。。
漠然とした不安を抱えるなかで、頼子ちゃんがじっと見つめているのに気づく。
その熱い視線の本当の意味を理解していなかった僕は、その時はまだどうにかなると思っていた。
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