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「そんなのデタラメです。マッチングの相手と桃子がやっちゃたから、汚くなって捨てたんです。ぞうきんのように」
「桃子ちゃんは何もなかったって...」
「そんな言い訳ほんとに信じてるんですか?マッチングアプリで知り合った相手と会って、ほんとになにも無かったなんて?」
「...それは」
僕はあの時かすかに漂っていた栗の花の臭いを思い出す。
「そんなことありえないですよね?そう思うから捨てたんですよね?違いますか?」
「違うよ。僕は桃子ちゃんを信じるよ」
「だったらなんで捨てたんですか?今桃子が落ち込んで家から一歩もでてないこと知ってるんですか?それでいいんですか?」
「えっ...。それはほんとうなのか?。桃子ちゃんが...。でも...。それでもやっぱり...桃子ちゃんとはもう会うことはできない。僕では桃子ちゃんを守ってあげられないから。他の男に会ったことも、結局は僕が桃子ちゃんのそばに居てあげられなかったからだと思ってる。だから桃子ちゃんにはちゃんとした彼氏が必要なんだ。桃子ちゃんを大切に思って、ずっとそばに居てあげられる彼氏が。でも僕が居たんじゃそれが出来ないって思うから身を引いたんだよ」
「...ねえトキさん。...会いたいです」
「え?」
「会ってください」
「なんで?頼子ちゃんと会う理由なんてないよ」
「桃子とは寝たのに、私とは会ってももらえないんですか?」
「そ、それとこれとは別問題だよ」
「私...。トキさんのお家知ってます。奥さんのことも。お家まで行っていいですか?」
「...脅す気か?」
「違いますよ人聞きのわるい。私はただトキさんに会いたいだけです」
「...分かった。会うよ。それで気が済むのなら」
「ほんとですか?よかった分かってもらって。それじゃあ、早速ですが今週の土曜日はどうですか?」
「わ、わかった。土曜日の3時くらいなら大丈夫だ」
「前会った喫茶店でいいですか?」
「うん。分かった」
「ありがとうございます。きっと...ですよ」
電話を切ってからも僕の鼓動はなかなか収まらなかった。
嫌な予感しかしない。
頼子ちゃんが僕のことを好きと言ったのは、スキー場で助けたことによる一時的な気の迷いだと思って受け流していた。
頼子ちゃんくらい男好きのする子ならいくらでも男が寄ってくるはずなのに...。
なにか企んでいるのだろうか?
それに桃子ちゃんが落ち込んでいるという話が僕の心を暗くしていた。
もしかして桃子ちゃんもいっしょに?
いや桃子ちゃんに限って、そんなことは...。
いったいどうしたらいいのか。
心配で心配で仕方がない。
電話をかけてみようか...
いや、今桃子ちゃんに連絡を取ったりしたら元の木阿弥だ。
時間が解決してくれる...。
そう信じることしか今の僕にはできなかった。
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