第17章 過ち

1/5
前へ
/200ページ
次へ

第17章 過ち

僕は車までの短い距離を歩きながら、どうするべきかと必死で考えを巡らせた。 「さ、どうぞ」 「え?お話しするんですから、後ろじゃなくて助手席がいいです」 「そ、そうだね」 助手席のドアを開ける。 「わぁ。ドア開けてもらうなんて初めてです。トキさんて、やっぱり紳士ですね」 ことごとく裏目にでる自分を呪いたくなる。 「車のなか、いい匂いがします。これトキさんの匂いですか?」 「え?自分じゃ分からないけど、臭かったらごめん」 「ううん。いい匂いです」 キョロキョロと車内を見渡す頼子ちゃんに不安だけが募る。 自分の車の中で、こんなに落ち着かないのは初めてだった。 イグニッションを回しエンジンをかける。 「それじゃ家まで送るから、その間に話そうか」 「え?ほんとですか?うれしい。それじゃ、夕ごはん作るんで食べて行って下さい。一人暮らししてるんで、こうみえても料理得意なんです」 「い、いや、それは無理だよ。」 脇から冷や汗が伝う。 これじゃあ頼子ちゃんの思う壺だ。 どうしたらいい? 「どうしてですか?せっかくゆっくりお話ししてくれるって言ったのに」 「い。いや。そんなつもりで言ったんじゃない。ただ冷静に話そうって言っただけなんだ」 「私は冷静ですよ。トキさんの方がなんだか落ち着かないから、だからゆっくり話しましょうって言ってるんですよ」 駄目だ。抜け出せそうにない。 「と、とにかく駄目だ。家に送るだけだ。じゃなきゃ降りてくれ」 「...いいんですか?」 「な、なにが?」 「私が今ここで叫んでも。」 「え?」 「この人に変なことされましたって...」 「な?なにを言ってるんだ。僕は何もしてないよっ」 「でも私がそう言ったらそうなりますよね?」 「そ、そんなことは犯罪だよ」 「奥さんと娘さん、どう思かな~?」 「わ、わかった。...少しだけなら」 「ほんとですか?うれし~。今日は腕によりを掛けて作ります。トキさんなにが好きですか?あ。私以外ですよ。きゃっ、恥ずかしい~」 どうしてこうなってしまったんだろう。 何かを言えば言うほど深みにはまっていく気がする。。。 漠然とした不安を抱えるなかで、頼子ちゃんがじっと見つめているのに気づく。 その熱い視線の本当の意味を理解していなかった僕は、その時はまだどうにかなると思っていた。
/200ページ

最初のコメントを投稿しよう!

124人が本棚に入れています
本棚に追加