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「好き...なんです」
頼子ちゃんの瞳に射抜かれたように身動きがとれなかった。
「抱いて...。欲しいんです」
「それはできない」
僕は首を振り、手を振りほどく。
「どうしてですか?桃子は抱けるのに、どうして私は抱けないんですか?」
「桃子ちゃんのことは関係ない。これは僕と頼子ちゃんの問題だ」
「...そんな状態で帰れるんですか?」
頼子ちゃんの目は盛りのついた雌豹のごとくギラついていた。
「頼子ちゃん。...なにか...入れたね?」
局部が痛いほど脈打ち、今すぐにでも貪りたい衝動を抑え込む。
「こんなこと間違ってるよ。こんなおじさんのどこがいいんだい?頼子ちゃんにはもっとふさわしい人がいるよ。こんなことをして一体どんな得があるっていうんだい。もうこんなことは止めよう」
「いやですっ。トキさんは今まで会ったどの人とも違うんです。今までの人はみんな私の体が目当てだった。でもトキさんは私がスキー場で落ちた時、あんないやな態度をとった私を、励ましてくれて一所懸命助けてくれました。優しくてうそもつかなくて。気がある素振りを私がしても誘おうともしなかった。何度かお話しして、本気で好きになるってこういうことなんだってわかったんです。だから気の迷いじゃありません。お願いです。抱いてください。じゃなきゃ私」
「ごめん。頼子ちゃんが本気だってことよく分かった。それを軽く考えていたことは謝る。でも僕が頼子ちゃんを抱いてしまえば、やっぱり僕も嘘つきな男になっちゃうんじゃないかな」
はぁはぁと苦しそうな息を繰り返す頼子ちゃんに必死に訴えかけると、一瞬たじろいだ表情を見せた。
「トキさんのことが好きなんです。それじゃダメですか?好きなだけじゃダメなんですか?私だって一杯悩みました。なんとか諦めることができそうな気がしてたんです。でも桃子が抱いてもらったって知って、それなら私だって。私だって好きな気持ちは桃子なんかに負けません...」
「ごめん。でも僕は、これ以上罪を重ねることはできない。分かって欲しい」
「私と寝ることはそんなに罪なんですか?そんなに私は悪いんですか?」
「違うよ。これは僕だけの罪だ。今頼子ちゃんを抱いても、結局は弄んだことにしかならないから」
「だったら桃子のことはどうなんですか?桃子のことも弄んだだけじゃないですか」
「違う。桃子ちゃんのことは...。僕は。僕は...。本気だったんだ。本気で愛してしまった。だから抱いた」
そう言うと頼子ちゃんは放心したかのようにただポカンと僕を見ていたか思うと、ポロポロと涙を流しはじめた。
「どうして...どうして桃子ばっかり。私はこんなに好きなのに...。こんなに努力してるのに...。みんな、桃子、桃子って...。そのたびに私は誰からも愛されない存在なんだって思って消えたくなる。私は桃子が憎い。何も知らない振りしていい子ぶって。あの子さえ居なければ...。私はただ...。ただ私を愛してほしいだけなのに。私だけを。それだけなのに...。こんなに難しいなんて...」
「...」
「トキ...?さん?」
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