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第18章 別れ
僕たちは裸のままで抱き合っていた。
頼子ちゃんは幸せそうな顔で僕の顔をみている。
でも僕には”しなければならないこと”がある。
「頼子ちゃん」
「頼子って。呼んでください」
「ううん。頼子ちゃん。ちゃんと言わなきゃならないことがある」
「...いや。です...」不安げに顔を逸らす。
「頼子ちゃん。僕の言うこと聞くって約束したよね?」
「でも。...それは...」
「約束は約束だよ」
「...」
「頼子ちゃん」
「いやです。聞きたくないです。やっと...やっとこうしていられると思ったのに...。離れたくありません」
「頼子ちゃんは、それで幸せかい?」
「しあわせです。私はトキさんと居られるだけで」
「居られないよ」
「...」
頼子ちゃんが震えているのが分かる。
「今はいいかもしれない。でも僕は妻とは別れない。そんな状態でほんとに頼子ちゃんは幸せかい?」
「だったら...。だったら幸せってなんなんですか...」
「幸せは...。ありふれた日常だよ。そこそこ好きな人と結婚して、子供を産んで、子育てして、家族と過ごす。そんなごく普通の生活が連綿と続いていく。それが幸せなんだよ」
「...私は。私はそんなもの信じられないです。...高校の時、好きで好きでたまらない人の子を妊娠して...。でも裏切られて。...堕ろして。親にも腫れ物に触るようにされて。逃げるようにしてここに来たんです。だから私は私だけを愛してくれる人が欲しいんです。満たして欲しいんですこの心を。でもちょっとしたうそが許せなくて。信じられなくなって。」
「...つらかったんだね。ごめん。なんにも知らなくて」
小さく首を振る頼子ちゃんの頭を撫でると首に顔を寄せてきた。
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