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「桃子...。あなた...」
「もういいの。だって...」
そう言う桃子の動きを目で追う。
桃子は愛おしそうにお腹を撫でていた。
「桃子...。ま、まさか...。あ、か、ちゃん?」
「うん」
「だ、れの子?」
「決まってるじゃない」
「トキ、さん?」
「うん」
「知ってるの?トキさんには言ったの?」
「ううん」
「は、早く言わなきゃ」
「ううん。いいの」
「いいのって桃子。どうする気?」
「もちろん産むわ」
「産むって、あんた」
「だってトキさんの赤ちゃんだもん。それだけで私は生きていけるから。ここにトキさんがいるって思えるから」
「いつから?いつ分かったの?」
「少し前から気分が悪いときがあるなって思ってた。でも色んなことで悩んでたから、これってストレスなのかなって思ってたんだ。でも生理がきてないことに気づいて。もしかしたらって病院に行ったの。そしたら赤ちゃんがいることがわかって。その瞬間私思ったんだ。この子のために頑張らなくちゃって。今はこの子のことしか考えられない」
「でもでも。言わなきゃ。そんな大事なのこと、あなただけの問題じゃないわよ」
「いやよっ。だって...。だってもし堕ろせって言われたらと思うと」
桃子は不安そうに両手でお腹を押さえている。
「いつもつけてなかったの?」
「ううん。つけなかったのは一度だけ。初めての時。そのあとはトキさん、ものすごく気をつけてた。私はもっとトキさんを感じたかったけど、トキさんがダメだって...」
「...それって、本当に...トキさんの子?」
「当たり前じゃないっ!私はトキさんとしか寝てないんだからっ!」
賑やかな中央芝生でもわかるくらい桃子の声が響き渡ると、不意に声が止み、好奇に満ちた目が注がれていた。
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