運び屋歴十数年

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運び屋歴十数年

 ダンジョンは広大で深く、そして金銀財宝が此処彼処に散らばっている。  人々は欲望の為ダンジョンの周りに群がり、入り口付近に街が出来る。  街が出来ると、今度は冒険者ギルドが設立される。  ダンジョン専用の職業として、運び屋が生まれる。  冒険を夢見て旅立った若者は、ダンジョンに挑み、己の実力を知り、絶望する。  生きていくため、若者は職業を運び屋に変える事を決意する。  生き延びた若者は年を取り、運び屋歴十数年のオッサンになっていた。  今日もダンジョンに潜る冒険者達の荷物を運ぶべく、オッサンは働いていた。 「ふー、今回は結構危なかったなぁ」  ダンジョンから数日ぶりに戻り、冒険者ギルドから報酬を貰って酒場に飯を食べに来たオッサンは、エールを一口飲んでから独り言を呟く。  冒険者成り立てで若く無鉄砲な彼等は、オッサンの忠告に耳を貸さず無茶をして怪我人が出た。  しかし、怪我人が出た程度で済んだのはオッサンの経験と助力の賜物で、本来ならパーティ全滅も有り得た。  命辛々の帰還だったが、帰ってくるなり気が強くなり冒険者ギルドで報酬の悶着が有りはしたが、個人面談で正確に出来事を伝えたら、ちゃんと報酬が貰えた。  彼等は、再度古参の冒険者に心得と言う名の扱きが待ち受けていた。  オッサンは独りパーティから抜けて今此処に至る。  必要経費を除いた報酬の残りで飯を食い、宿屋の支払いを済ますと、手元には殆んど残らなかった。 「はあ、明日も生活費を稼ぐために働かなくちゃな」  変わらない毎日が続くと思った次の日、オッサンはギルドガードに見知らぬ項目が追加されている事に気が付いた。 「『ギフト:雑草魂』?」  朝食と補充を済ませてから冒険者ギルドに行き、何時ものように運び屋の仕事はないか確認の序でで受付嬢にギフトの話をすると、別室に案内された。 「おめでとうございます。ギフトはダンジョンマスターが気紛れで冒険者に与えるとされている、珍しいスキルですよ」  ダンジョンにはダンジョンマスターなる神に等しい存在がいるとされていたが、実際にギフトを貰えたならば信じざるを得まい。  オッサンはギフトの詳細を教わり、『雑草魂』の効果を知った。 「そのギフトが有れば前衛を独りで任される位に有用です。タンク職にはヨダレ物な程に」  オッサンはその日、職業が運び屋から盾持ちの重戦士にクラスチェンジしたのだった。  タンク職は複数存在しており、軽装の避けタンクや全身鎧に身を包んだ受けタンクが有る。  重戦士は受けタンクにあたり、大盾で攻撃を受けて複数のモンスターからヘイトを稼いで引き付ける役を担う。  職業には専用のスキルが与えられる。運び屋にも専用スキルは有るが、荷物の重量軽減や生活魔法の一部使用魔力軽減と、痒いところに手が届く程度でしかなかった。  レベルが上がれば体力も上がり、魔力も増えるので無くても困らないスキルなのだ。  
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