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 Y博士の元を訪れたのは中性的な容貌の人物であった。体格は細身で長身。生気を感じさせない無表情な顔つきに全身から鬱々としたオーラを放っているように思えた。 「君の名前は?」  Y博士が尋ねるも、(かす)れた声で「ゼロ」としか答えなかった。  何か素性を明かせない理由があるのかもしれない。尤も、Y博士には他人の素性を根掘り葉掘り(あさ)る趣味は無いため、言いたくなければ言わずとも結構という考えであった。  そのため、この人物の名前を便宜的に「ゼロ」と表記する。 「それで、この私が丹精込めて作り上げたタイムマシンを借りたいと?」  対してゼロは頷いた。 「ふむ。で、金の方はどうなんだ?提示した額を払えないのであれば当然こちらとして承知することは出来ないな」  Y博士は頭を掻きながらソファにふんぞり返ると、ゼロはおもむろに懐から紙切れを取り出し、Y博士の元に差し出した。  それは小切手であった。そこには日本円で約200億円に値する額が記されていた。  それを見たY博士は驚きのあまりソファごと後ろにひっくり返った。 「お、おいおい、これは冗談だろ?まさか、偽物じゃあるまいな」  動揺するY博士とは対照的に終始無表情のゼロは首を横に振った。  Y博士はゆっくりと立ち上がり、ソファを起こして身なりを整えて座った。 「まあ、調べてば分かることだ。契約はそれからだ」 「……一つ条件があります」  ゼロは弱々しい声で言った。そして、懐からカメラを取り出した。 「これで写真を撮ることを許可して下さい」 「ふむ。そのくらい君の自由だ。好きにするがいい」  Y博士は気にも留めず快諾した。  ゼロは軽く一礼をして謝意を示した。
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