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タイムマシンは旅立ってからおよそ1時間後に帰還した。
タイムマシンから特に変わりないゼロが降りて来た。時空旅行が相当充実していたのか、旅行前と比べて表情は和らいでいた。
「よう。楽しかったか?」
「とても」
「レオナルド・ダ・ヴィンチには会ったか?」
「はい」
「そいつはスゲェ話だ。もしかしてそのカメラで記念撮影でもしたか?」
「そんなことはしません。人類の英知が無くなってしまいます」
ゼロは意味深な発言をした。
Y博士を首を傾げ、その真意を問いただそうとしたが、それを遮るようにゼロから一枚の写真を渡された。
写真には何の変哲もない一人の赤ん坊が写っていた。
「その写真を燃やして下さい」
唐突にそんなことを言われたY博士は戸惑った様子で溜息を漏らした。
「何を血迷って写真を燃やせと言っている?私が言うのもなんだが、500年前の赤ん坊の写真はある意味貴重だ。陰謀論者なら幻のオーパーツと喉から手が出るほど欲するだろうに」
「……この世で一番価値の無い下劣な写真です」
ゼロは不愉快そうに言ってY博士を睨みつけた。どことなく憎悪や怒りを湛えた目つきだった。
それには思わずY博士も同意せざるを得なかった。
とは言え、破格の対価を得たことを考えれば、それくらいのことなどどうということもなかった。
「それでは、これで失礼します」
Y博士が了承したことを見届けると、ゼロは軽く一礼して研究所から立ち去った。
ゼロとの約束通り、写真は燃やした。
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