ずっとあなたのそばに居たかった

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    ホノカは祓巫女として身籠もり男女の双子を産み落とした。   この世界において民人には【男】というものは存在を認識されておらず、【ソレ】山向こうに住まう異形として認識されている。   今までの私ならば、男児のことを『神子』として認識しただろう。   祓巫女は、儀式に際し相応の教育を施され月に一度の儀式に参加をして、子を授かる者である。   生き物として、片方の性のみの社会は不自然だというのに、私たちはこれを当たり前と認識して生きてきた。   いつからこのように生きているのかは分からないが、不自由を感じることなく暮らしている。      巫女として選ばれるのは、心身ともに健康で健全なことが条件で、子供の頃から集落で一年に一度選ばれるその席を、栄誉の証として意識し志している。   そこから更に三年に一人選ばれる都に出仕する巫女は、正に雲の上の存在だ。   それとは別に、護衛官という役目が神殿づとめの選択肢として存在しており、容姿や家柄、学問において自信の持てなかった私は、それを目指して鍛錬に努め、見事その座を勝ち取った。   幼い頃から慕っていた都の巫女に選ばれたホノカの傍にずっと居たかった自分には、ごく当たり前の選択だった。      知ってしまったホノカが、山向こうの神子と心を交わしてこの世の不自然さを意識してしまったのは、善いことか不幸なことなのかは判断できないが、ホノカのために私がこの身を使うのは、私にとって当たり前のことなので、全く後悔はない。   だから、これも当たり前の選択なのだ。     「あなたがそちらに行くというならば、私はそれを阻止しなければならない。  ホノカ、村に帰るあなたの娘にはあなたが必要だ」  私は、ホノカに刃を向ける。  「たとえ物言わぬ存在となったとしても、優秀な巫女の娘であったという事実が、あの娘には必要だ」  私の大好きなホノカの整った顔が、歪む。  「大好きなホノカ、ずっと大好きよ」  山で獣を仕留める時のことを思い出しながら、刃をひく。  「ここまででお役目を勝手に投げ出すことを、許してねホノカ」  首が、焼けた鉄の棒を圧し当てたように熱く感じる。  目の前で、ホノカの瞳から涙が溢れる様を美しいと思う。  「あなたの幸せのためなら、あなたの傍に自分が居なくても良いなんて言う、身勝手な私を許してね」    ホノカが私の名を叫ぶ。  最期に、大好きなアナタに名前を呼んで貰える声が聴ける私は、なんて果報者なのでしょう。  この先一緒の居ることが叶わないなら、自分から離れる理由には十分だし、私の骸がアナタの名誉を守るために使えるなら、安いモノだわ。  だって、アナタの傍に居られない人生なんて、死んでいるのも同じだもの。    この後、あちら側に行って姿を眩ませるアナタの代わりに、私の顔を潰した骸を使ってね、それだけで高貴な巫女のアナタの名誉は護れるし、アナタの娘も手厚く育ててもらえるはずよ。    ホノカの絶叫を子守唄に、私は目を閉じた。
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