プラスチック狂走花

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 検査の結果、全治二週間の打撲と診断された。骨折も脳の損傷もなかった。 「頭はすでにイカれてんだろ」  見舞いに来たハヤマが言った。 「魔力に守られたメットやスーツっつっても事故ったら普通ただじゃ済まねえぞ。あんな走りをする頭も、無事で済んでる身体も……お前はイカれちまってるよ」 「でもあと少しだった」  セツは病院のベッドの上で身を起こした。 「あと少しだったのによ」  自分でも思うほど情けない声色だった。  ハヤマが溜息をついた。 「いや、あのままコーナーを曲がれたとしても、オガタに抜かれてたよ。あいつのスパートはそれくらい凄まじかった」  新聞を投げ渡された。『天才の再来か』という見出しが書かれた小さな記事。その映像部分にハヤマが手をかざした。魔力に応じて白黒の映像が動きだず。 「下で売ってたスポーツ新聞だ。小さいけど高校の未勝利戦なんかが載るなんて、ほんとに異例だぜ……で、これがオガタの走りだ。ラストラップのタイムは一週目のお前とほぼ同じだったよ」  派手に横転する自分と、そんなこと意にも介さず走り抜けるオガタ。直線で抜かれる自分。見えない映像まで見えた気がした。舌打ちをする。 「だけど昨日はいつもより力が出せたんだよ」 「タケダは闘志を燃やすタイプだからな。負けたくない相手が現れて、魔力にも影響したんだろ。たしかに二周目まではいつも以上の走りだった。客席も目を見張ってたよ」 「それが余計にオガタを引き立てちまったか……」  セツは自嘲気味に鼻を鳴らした。ハヤマが唇の端を吊り上げた。 「そう悪いことじゃない」  差し出されたのは名刺だった。スズカゼの社名が入っている。 「お前の走りを見てくれた人がいる。しかもスズカゼの人間だ。すごいぞセツ!」  ハヤマは興奮して言った。セツは目を丸くして名刺を食い入るように見つめた。 「バタバタしてて詳しい話は聞きそびれちまったけど、回復したら連絡してほしいって言ってた。これが本当に実業団のスカウトなら大変なことだぞ!」  呆然とするセツに、ハヤマは唾を飛ばしながらまくしたてた。名刺を渡した男の特徴や、スズカゼのバイクについて早口で説明をすると、大きく呼吸をしてやっと落ち着いた。 「まあ兎にも角にも、はやく退院しないとな。これ、お前の充魔石な」  ハヤマはポケットから(あか)く鈍い光を放つ石を取り出した。石にはセツの魔力が込められている。有事の際にはこの石から魔力を(おく)ることができるように、普段から石に魔力を蓄え備えているのだ。 「サンキュ」  セツは右手で石を握りしめた。柔らかく熱いエネルギーが身体中に流れ込んでくる。  左手には希望をつなぐ名刺があった。
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