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「悪かったな。院長がいるからわざわざ言う必要もないかと思ったんだ」
一応子供の腕に触れて、想定内の温度であることを確認して袖を戻した。
「予防接種っていうのは、ウイルスと戦える武器を作ることを目的に、ウイルスもどきを打つんだ。このウイルスもどきが体内で増殖して悪さをすることはないが、身体はそれを異物と認識して武器を作るんだから、そりゃあ腫れるし熱も持つ。二、三日様子を見て、治まらないようだったらまた来てくれ」
説明しながら、メモ用紙に住所を走り書きする。
「すみません。私、気が動転して、言い過ぎました」
そう謝ってくる女にメモ用紙を手渡した。
子供の額に手を当てる。体温も問題なさそうだ。
「これは……?」
「俺んちの住所」
「へ?」
子供の額に当てる手で目まで覆って、立ち上がる。
女の顎を掴んで引き寄せて、ほんの一瞬キスをした。
「な、なな、な……!」
女はみるみるうちに真っ赤になって、後ずさってドアに頭をぶつけている。
「家族用のワクチン持ってるから、あんたにも打ってやるよ。今週は夜八時以降なら家にいる」
言いながら椅子に腰を下ろして、子供の目から手を離した。
「その様子じゃ、インフルエンザウイルスに対しても男に対しても免疫ないだろ。本番で苦しまないように、俺があんたに仕込んでやるよ」
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