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免疫記憶
「本気じゃないなら、あの女はやめておけ」
孫娘の二回目の予防接種に向かう車の中で、院長は俺に言った。
「君のやんちゃぶりは、私のところにまで聞こえているよ」
院長の耳に入った経緯には心当たりがあった。
診察室で女にキスするところを見られていたらしく、看護師に『私と結婚してくれなかったら院長に言い付ける』と脅された。そいつは一回寝ただけで彼女ヅラをしてきて、辟易していたところだった。それで、『勝手にしろ』と返したのだけど、どうやら本当にバラしたようだ。
まあ、いい。院長も女癖が悪いことで有名だ。患者に手を出したわけでもあるまいし、俺の印象が悪くなることはないだろう。
「本気だったらいいんですか?」
『本気じゃないなら』という言葉にひっかかってそう訊くと、院長は不気味な笑みを浮かべた。
「あの女と添い遂げて、かつ私の病院を去らないと誓ってくれるなら、むしろ大歓迎だよ。君に何かと便宜を図ってやってもいい」
急に話がきな臭くなってきた。
「すみません、遠慮しときます。あの女のことはちょっと揶揄っただけで、別にどうこうしたいわけじゃないんで」
すぐ断った俺に、院長は「そうか」とだけ返して、それ以上は何も言わなかった。
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