免疫記憶

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「ジャンパーをお返ししたいんですけど」  院長の孫娘に痛い思いをさせずに注射するというミッションをコンプリートした俺に、女がこっそりと話しかけてきた。 「家に置いてきちゃったので、先生のご自宅に届けに行きます」  今返してくるのかと思いきや、女はそう言った。 「今晩なら、八時以降は家にいる」  返してくれなくていい、と告げるつもりが、俺はそんなことを口走っていた。    女は、八時ぴったりにインターホンを鳴らしてきた。 「すぐにお返ししたくて何度か伺ったのですが、お留守で……」  玄関でジャンパーを受け取った俺に、申し訳なさそうに言った。 「ああ、それは悪かったな」  このところ女の家を渡り歩いていて、帰りは深夜だった。 「入る?ワクチン打ってやるよ」  ドアを大きく開けると、女は素直に俺の家に上がった。
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