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夕食は、ホテルのレストランで食べた。
部屋にキッチンが付いていて自炊もできるので、宿泊に食事は付いていない。
レストランに行くか、材料を買ってきて自分たちで作るようになっている。
テイクアウトもできるらしく、チェックインしたときに渡されたチラシの中に、注文書が入っていた。
パスタやピザといった一般的なメニューから、前日までに予約しておけば、バーベキューの食材もセットで用意してくれるという。
それにこのレストランは、地元の人に開放されていて、宿泊客以外のお客さんも入っていた。
海の見えるレストラン、ということで、シーズンイベントもやっているらしい。
窓辺の席に案内されると、取りあえずビールを頼む。
すぐに、カウンターの端に見えるサーバーから、注ぎたてのビールが届けられた。
お任せオードブル盛り合わせ、今日の水揚げ魚のカルパッチョ、ラム肉の香草焼き、野菜サラダと適当に頼む。
「じゃあ、二人の夜に、乾杯」
悪戯っぽい顔で悠哉さんがそう言うのに、ふふっと笑ってしまったけど、彼が持ち上げたグラスに自分のを合わせる。
「うん、旨い」
「苦みとコクのバランスがいいね」
これは、近くのエリアで作られているクラフトビールなのだそうだ。
グラスを満たす金色の液体は、クセがなくて喉ごしが良い。
悠哉さんは半分くらい、一気に呑んでしまう。喉が渇いていたのだろう。
「旅行の計画と、今日の運転と、本当にありがとう」
ううん、と彼は首を振って、オードブルのホタテに箸を伸ばす。
「実は今回、ホテルの選定が一番のミッションだと思っていて、それ以外はあまり考えてないんだ。
部屋でのんびりしても良いし、近くに市場があるみたいだから、行ってみてもいいかな、とは思ってるんだけど、他にプランは考えてないよ。
なんか、取りあえず非日常を味わえれば、と思って…」
「うん、それでいいよ。旅行だからと言って、別にブランド品を買いたい訳じゃないし、海の幸を大量に買ってお土産にする必要もないしね。
自分たちがのんびりできれば良いんじゃない?」
それなりにお腹は空いていたので、出てくるものを食べながら、私はビールのお代わりをもらう。
彼の2杯目はやっぱりワインだった。
明日の朝は、朝食セットという食材が冷蔵庫に入っている。
あらかじめ頼んであったもので、ベーコンと卵と食パン、牛乳とトマトにレタスなどが用意されていた。
「ね、見て? キレイ」
私は、悠哉さんの角度から斜め後ろ側になる方を示す。
日が落ちて、陰になっている崖の上に、道路の照明が弧を描いて灯っていた。
その先に、昼間は気づかなかった遠方の建物の灯りが見える。
「お、いいね」
彼はそう言って、スマホを取り出すと写真を撮っている。
「妃奈は、こんなホテルを舞台に作品を作るとしたら、どんなシチュエーションが浮かぶ?」
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