Honeymoon 前編 【77,777スター御礼】

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部屋に戻ると、荷物を整理しながらそれぞれでお風呂に入った。 先に入った彼が、いつものようにタオルを首に掛けて出てくるのと入れ違いに、バスルームに入る。 タイル張りの床に、白い楕円のおしゃれなバスタブが置いてあるバスルームは、顔の高さに横長の窓が付いていて海の景色が覗ける。 夜の海は闇に溶けていて、レストランから見えた灯りも、こちらの角度からは一本の線になっている。 さっと身体を流すとバスタブに浸かり、壁についた柔らかな色の照明を眺めた。 バスタブの形は、身体をゆったり預けるのに最適だけど、 …ふたりで入るには狭いかな。 そんなふうに思ってしまうのは、この旅が『ハネムーン』だという意識があるからだろう。 しばらく暖まってからバスタブを出ると、念入りに身体を洗う。 足の指を丁寧に洗いながら、男女のそういうことに備えているような自分の行動に苦笑する。 悠哉さんはあの時、私の足の指を一本ずつ舐ることがあるのだ。 一度そうされてから、お風呂に入るたびに指の間や爪の中まで気にしてしまうクセがついてしまった。 もう一度お湯に浸かって暖まり、バスルームを出ると、顔や肌の手入れを簡単にして髪を乾かす。 ホテル備え付けのパジャマはあったけど、私は自分の持ってきたものを着た。 バスルームに置かれていたホテルのシャンプーは、男女問わず使える自然派タイプで、乾かしているとカモミールの軽い薫りがする。 …悠哉さんもきっと同じ薫りがするだろうな。 そんなふうに思いながら、灯りを消してバスルームを出た。 キッチンカウンターの上にあったペットボトルから水を汲み、乾いていた喉を潤す。 リビングとベッドルームが一室になっている部屋は音もなく、カーテン越しに微かな波の音がする。 ベッドのあるスペースはリビングの右手側にあって、キッチンスペースからは見えない。 グラスをサッと洗ってカゴに入れる。 なんか静かだな、と思ってベッドの方に寄っていくと、彼はいつものようにベッドの右側に横になり、タブレットを手にしながら眠りに落ちていた。 …疲れたんだね。 それはそうだろう。 朝から移動続きで、私の実家にも彼の家のお墓にも寄り、最寄り駅から慣れないレンタカーを運転してきたのだ。 私は彼の手元のタブレットをそっと取り上げ、サイドテーブルの上に置いた。 彼を起こさないように、ベッドの半分にそっと入ると、灯りを消した。 こちらを向いている彼の身体に薄い寝具を引き上る。 ん、と軽い吐息が彼の口から漏れたけど、目を覚ます様子はなかった。 …明日はどんな日になるんだろうな。 特別なことは何もなくていい。 こうして彼と一緒に、非日常を味わえる数日を、充分に満喫しよう。 そう思ったのは一瞬で、私もすぐに眠りの世界に引き込まれていった。
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