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その日は、テラスで夕ご飯を食べることにした。
ウッドチェアを平らにして、ベンチ代わりする。
小さなテーブルに買ってきた物を並べた。
一口大にカットした生春巻き、エビの殻焼き、ホタテ、カットトマトにブロッコリーのサラダ。
今夜の飲み物は、ホテルオススメのシャンパン。
この部屋は、ホテルの部屋とは思えないほど食器が豊富に揃っていて、フルートグラスもちゃんとあった。
波の音をBGMに二人で乾杯し、いろんなことを話しながらそれを食べる。
少し夕方の気配が残っていた空に、大きな丸い月が昇ってきた。
今夜の月は暖かなピンク色で、テラスの手すりの間から動いて行くのが見える。
お皿の上が減ってきて、一度それを片付けると、テラスの手すりに並んで寄りかかり、高い位置に移動した月を眺める。
「妃奈はあの月に、どんなイメージを感じる?」
わ、また来た、と思いながら、嫌いじゃない私は直感で答える。
「う~ん、母性…かな?」
「ほぅ、なぜ?」
「色の感じと、大きい月だから抱擁力をイメージしたの」
「なるほど…」
「悠哉さんは?」
「そうだな、イメージは似てるかも。女神かな?」
「うん、いいね」
「やっぱり包み込む感じはあるよね。青や黄色に比べると」
「そうだね」
「…妃奈みたいだよ」
私の背を抱きながら、彼が言う。思わず彼の顔を見ると
「温かくて、優しくて、俺を包んでくれる」
そう言うと、唇にチュッとキスが降ってきた。
背に回された腕で身体の向きを変えられ、頬に手が掛かると、柔らかく唇を塞がれる。
目を瞑って、彼の唇の動きに応えていると、それはどんどん深くなっていく。
背中に回った腕が、彼の想いを伝えるようにギュッと私の身体を閉じ込めた。
「…中に行こうか?」
角度を変えながら続いていたキスが一度途切れると、離れただけの唇がそう聞いてきた。
軽く頷くと、彼に背を抱かれ、部屋へと入る。
フロアライトの灯りが、リビングの端に点いている。
彼は先にソファに座ると、「おいで」と私を自分の腿の上に跨がらせた。
頭の後ろに手が掛かり、引き寄せられると唇を塞がれる。
「こうやって、何度キスしたんだろうな…?」
顔が離れると、悠哉さんはそんなことを言った。
「昨日、親の墓に行ったからか、これまでの自分のことを振り返るような気分になっていたんだ」
私は黙って、彼の言葉の先を待つ。
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