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「離婚した後、これから先はもう、一人で生きていくんだろうな、と思っていた。
実際、妃奈とこうなるまではそう思っていたし、仕事も順調に増えていたから、別になんとも思っていなかった。
…でも、妃奈とこうなってみると、もう、一人で生きていくなんてできないと思う。
やっぱり人は、本能的に相手を求める生き物なのかもしれないな」
そんなふうに話す彼の唇に、ちゅっとキスをあげる。
「…そうだね。私、いつも思うんだよ。
最近は結婚しない人も増えているし、若い世代はもう、恋愛も面倒なんだって。
それなりにお金も掛かるし、付き合う相手に気を使わなきゃいけないからって。
…でもね、世に溢れるいろんな小説も、映画も、マンガも、音楽だって、こんなに愛について語っている。
それが求められる理由は、やはり人が人を愛することを欲しているんじゃないかって」
チュッと彼がキスをする。
「…分かるよ、それ。
俺がこれまで書いてきたものって、ジャンル的には恋愛ではないけど、起こる出来事の裏にあるものは、やっぱり愛という感情から生じるんだと思うよ。
…ただ、これまで書いてきたものは、愛ゆえに苦しくて、愛ゆえに引き起こしてしまうことで、どちらかというと愛ゆえに起こるマイナスな出来事なんだよね。
だから、いつかは純粋な恋愛小説を書きたいと思うのは、人を愛することのプラス面を書きたいっていう欲求なのかもしれない」
そう言うと、またチュッとキスをする。
「妃奈が傍にいてくれれば、いつかは書ける気がする。人を愛することの素晴らしさを…」
私はその言葉が終わらないうちに、彼の頬を両手で包み込むと、万感の思いを込めてキスをした。
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