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意地の悪い顔になって聞いてやる。
「分かってる。俺もそうだしな。
でも、そのことに客観的に気づけたということは、妃奈相手なら何とでもなるような気がする」
「何とでも、とは?」
「お互いのことを大事にしあえる関係というのかな。そんな感覚で付き合えそうだ、というか…」
「それは私への告白ですか? 先生」
…もう茶化すしかない。憎からず思っている人から、そんなことを言われたことがない。
彼はこらっ、と言う表情をして、
「だから、もっと一緒にいて、いろいろやってみたい。この気持ちが続くのかどうか」
「また取材ですか?」
「だめ…?」
まただ、どうしてこの人の目は、そんなに色っぽく誘うのか。
その上、そんな甘い声で言われたら、断れない。
彼の目を見て、返事の代わりにちゅっとキスをする。
「仕事はしっかりしてくださいね」
「どうかな、妃奈次第」
そう言って、今度は彼からキスをする。
「それにしても、体力落ちないように維持してた甲斐があったな」
そう言いながら、私の顔をじっと見る。
「まさか40を越えて、ひと晩に…」
慌てて彼の口を手で塞ぐ。
その手を握られて、口から離される。
「続き…する?」
「いやもう、無理です。許してください」
全身の、日頃は動かしていない筋肉が悲鳴を上げている。
押しつけられていた股関節も痛いし、もちろんあそこも…。
彼はふふふ、と笑って
「嘘だよ。俺も無理」
そう言って、手を離すと天井を仰いだ。
「あ~、なんか憑きものが落ちたみたいだ。体中から毒素が抜けた」
「毒素?」
「なんていうか、まあ、元結婚相手と失敗してるからだろうけど、こういうことになるなら上手くやらないと、みたいな変なプライドが、自分の中にあったみたいだ。
さっき目が覚めたとき、妃奈が隣にいてくれて、何か安心したんだ。妃奈なら、そんなふうに気負わなくてもいいんじゃないかって」
…そうなんだ、自信ありげに見えてたけど、本心は結構なプレッシャーを感じていたんだね。
「でも夕べ、妃奈に逃げられなくて良かった」
顔をこっちに向けて、笑って言った。
「ヘタしたら、セクハラで訴えられるかも、と気が気じゃなかった」
…これまでのイメージと、あまりにも違いすぎる。なんだ、この可愛い人は。
「起きてメシ食べようか? 先にシャワーする? 俺はしたから」
「着るものがない。急な出張用に下着の替えは持ってるけど」
「そうだった。ちょっと待って」
ベッドから出ると、クローゼットの引き出しから白い服を取り出した。
「前、女性用の服について聞いたとき、参考にと通販のサイトを教えてくれただろ? そこで買っといた。妃奈に着せたい服」
広げて見せてくれたのは、コットンの白いワンピースとタンクトップのセットアップ。
どちらかというと、旅行に行った先とかで着るっぽい服だけど、ワンピースの下の方に花の刺繍が入っていて可愛らしい。
「大人可愛い服、というページだったよ」
…どこまで用意してたんだ、この人は。
「こういうの、好きなんですか?」
「まあね、連れて歩くなら、こんなのがいいかな、と」
どう?と目で聞いてくるので、ありがたく着させてもらうことにした。
「シャワールームはこっち、好きに使って」
そういうと彼はリビングへと出て行った。
縛られていない後ろ髪が揺れていた。
初めて見たそのふわふわな髪はパーマなのか、天然なのか。
…後で聞いてみよう。
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