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次の日も良いだけ寝坊して目覚めると、悠哉さんはもう、ソファに座ってタブレットを触っていた。
「おはよう、妃奈」
私が身動きしたことで気づいたらしく、彼が私に声を掛けてくる。
「…おはよ」
彼はもう、襟付きの半袖シャツにハーフパンツを履いている。
すでに、シャワーを済ませたらしい。
「…なんでそんなに早起きなの?」
商売柄、もともと彼は夜型で、編集者との打ち合わせはいつも午後だった。
今は、前の晩遅くなければ、私と一緒に朝食を食べるために起きてくれるけど、いつもなら私の方が早い。
「ん? 俺はいつも通りだけど?」
そうか、仕事の日は6時には起きる私が、8時過ぎまで寝てるからだ…
昨日、テラスからソファへ移動した後、そのままベッドになだれ込んでしまったので、裸のままだ。
着るものも下着はスーツケースの中だし、ワンピースはクローゼット。
そこまでどうやって行こう…
私は仕方なく、纏っていたシーツを身体に巻き付けてベッドを降りる。
「…おっ、いいね、映画の1シーンみたいだ」
私を見た彼が、そう言って笑う。
「そのまま、ここにおいで」
そう言って、ソファの横をポンポンする。
「ほら、もうコーヒーできてる」とテーブルのポットを指さし呼ぶので、仕方ないなあ、とちょっと戯けた気持ちになって、シーツにくるまったまま、ソファに座った。
片手だけ出して、彼が注いでくれたコーヒーカップを手にする。
「…可愛い、妃奈」
悠哉さんは腕を伸ばして、シーツごと私を抱き寄せる。
「…ハネムーン、良いな」
顔を上げて、彼を見ると、嬉しそうに笑ってる。
「良いだけ妃奈を堪能できる…」
今度は唇にチュッとキスが降ってきた。
そのまま、鼻の頭に、右の頬に、左の頬にキスをされ、また唇に戻ってチュッとする。
…朝から、お砂糖10倍増し、ですね。
そのお砂糖攻撃をまともに受けて、ちょっと蕩けた顔になっていたと思う。
でも、そのままにしたら彼の思う壺なので、さっと右腕を伸ばして彼の頭を引き寄せると、私の方からキスをした。
「夕べの続き…する?」
耳元で甘い声が囁くのに、首をフルフルと横に振ると、彼は笑いながら身体を離した。
「何してるの?」
テーブルに目線を向け、タブレットを指さす。
画面には、文字や矢印が表示されている。
「いや、何か書きたくなって…」
「お仕事…?」
彼はううん、と首を振って
「外に出すあてもないものだよ。でもやっぱり思いついたら書いておきたくて…」
多分だけど、頭に浮かんだ人物像や、思いついたエピソードをメモってあるのだ。
頭の中に切れ切れに浮かんでくるストーリーや情景を書き溜めておいて、その時々に取り出しては、本筋に合わせて書き直す。
そうやって書きためたものが、彼のパソコンにいっぱい入っているらしい。
…本当にこの人は、書くことが好きなんだな。
タブレットのカバーについているキーボードをセットして、キーを叩き始める。
さっきまで甘い雰囲気を纏っていた人とは思えないほど真剣だ。
私はコーヒーを飲み終わると、そっと立ち上がってシャワーを浴びにいった。
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