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海風にあたったので、何となく髪や肌に潮気が残っているような気がして、まだ明るい時間からお風呂に入ることになった。
「先に行ってて」と悠哉さんに言われ、楕円の白いバスタブにお湯を貯めながら、先に身体を洗う。
顔の高さにある横長の窓から、今日は海が見える。
さっきまで晴れていた空は、雲が多くなっている。雨になるかもしれない。
何種類か置かれていたバスボムの中から、スイートジャスミンと名前のついていたものを入れる。
お湯が乳白色になって、少し泡も立ったので、明るいうちの入浴にはぴったりかもしれない。
私がバスタブに浸かっていると、彼が入ってきて、同じように身体を洗い始める。
「まだ明るいから、海が見えるよ。曇り空だけど…」
そう言うと、身体を洗い終わった彼も窓辺に立って外を眺めた。
「あ、降ってきたよ。さっき濡れなくて良かった」
彼はそう言って、バスタブに入ろうとする。
いつもなら彼が先に入っていて、私は彼の足の間に座ることになるのだけど、今日は私が先だったから、悠哉さんの背中を私が抱くように座らせた。
「妃奈が潰れないかな…」と、戸惑いながら湯船に入ってきた彼は、私の肩口にゆっくり頭を付けてお湯に浸かる。
楕円のバスタブは、二人横に並んで座るのは無理だけど、縦に入ればちゃんと肩まで沈むことができた。
「昔の映画に、こういうシーンがあったな」
「プリティ・ウーマンのこと?」
「よく知ってるな、妃奈はリアルタイムじゃないだろ?」
「仕事柄、一応は時代ごとに有名な本や映画はチェックしてるよ。あの映画は可愛かったから、何度も見たし」
湯船に浸かった彼女が、彼の身体を洗いながら、機嫌良く歌を歌っていたシーンが思い出される。
「英語の歌が歌えると、雰囲気出そうだけどな、残念」
そう言うと、ちょっとふざけて彼の身体に足を巻き付けた。
映画の彼女がそうしていたのを思い出したのだ。
「リチャード・ギアがピアノを弾いていたシーンがあっただろ? あれ、好きだったな」
「というより、その後、ピアノの上でセクシーなシーンがあったからでしょ?」
「正解。よく知ってるな」
「だって、私もあのシーン、好きだったもの」
私はお湯から出ている彼の肩にお湯をすくって掛けてやる。
彼の手が伸びて、私の頬を引き寄せてキスをする。
「ああいうシーンがあると、脳内変換して、他のもので同じように書けないかな、とすぐ考えちゃうよ。
作家の性とでも言うのかな」
さっきの私の言葉を真似してそんなふうに言うから、ふふふっと笑ってしまった。
「なるほど、そういう手を使うのか…知らなかった」
彼の顔は見えないけど、きっといたずらがバレた子どもみたいな顔で笑ってると思う。
そのうち、変換されたあのシーンがどこかに出てくるかもしれない。
彼はバスタブの縁に手を掛けて身体の向きをこちらへと変える。
「このあとレストランじゃなかったら、妃奈を堪能できるのに…、夜までお預けだな」
そう言って、私の頬に手を掛け、顔を寄せると、チュッとキスをした。
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