帰したくない

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力の入らない手を伸ばして、先生の手を捕まえる。 もう動けないようにぎゅっと握る。 まだ、皮膚感覚が敏感になったままだ。こんな時触られたら、訳がわからなくなる。 「はぁ、まずいな、腰をやりそうだ…」 そう言って、ふふっと笑う声がする。 頭が持ち上げられ、腕が差し込まれ、肩ごと抱き寄せられる。 肌と肌が密着する。髪を撫でられる。 顎に手が添えられ、優しいキスが降ってくる。甘く唇を食まれる。 私が好き、といった唇だけのキス。 私の好き…を尊重しようとする、彼の気持ちが伝わってくる。 目を開けると、優しい瞳が見つめていた。 「可愛い」 何が…? と目で聞いてみる。 「無意識なんだろうけど、身体の反応に巻き込まれて理性を失わないように、必死で抵抗している妃奈が…」 思わず頬が熱くなる…。 そこは冷静に解説しないでほしい。 「この先、妃奈が身も心も解放することができるようになったら、どんなふうになるんだろうな。楽しみだ」 そう言って、ニヤリと嗤う。 あぁぁ…怖すぎる。 これまでのことを考えても、彼の思うように翻弄されている自分に、抵抗できる術はない。 いつか本当に、そんなときが来そうで……怖い。 柔らかな眼差しで見つめてくる彼の、ほどけた髪にそっと指を伸ばし、撫でてみる。 「…シャワーしようか。風呂でもいいな」 私にどう? という目で見る。 「もう恥ずかしくないだろ?」 うん? という顔。 「全部見たし…」 あぁぁ、そういうのやめて欲しい。 彼の口に手を当ててやめさせる。 ふふふ、と笑って、腕を抜くと、身体を起こした。 ベッドの端に座ると、髪の毛をまとめて、手首にしていた黒いゴムで縛る。 そのすんなりとした背中に、思わず見入ってしまう。 立っていってバスルームに入り、電気が点くと水の音がし始めた。 戻ってくると、ティッシュを手にし、私の身体を拭ってくれる。 腕を引っ張られ、上体を起こすとゴムを渡されて 「簡単に洗ってやるから、髪は濡れないように縛っておいて」 髪を高い位置でまとめて、落ちてこないように巻き付けてお団子にする。 腰を抱かれて、一緒にバスルームに入った。 洗い場に立って、シャワーで身体を流してくれる。 それは、遊びにいった子どもが泥だらけで帰ってきたのを洗ってやるように、汗と唾液とそのほかいろんなものがついている身体をきれいにしてくれた。 「さ、先に浸かって」 私を洗い終わる頃には、バスタブにたっぷりのお湯が貯まっていて、入るように促される。 壁のバーを掴んで、ゆっくり入る。 彼は自分の身体を同じように流すと、バスタブに入ってきた。 傾斜のついたバスタブに背中を預けると、座り込んでいた私を引き寄せて、自分と同じように身体を伸ばさせる。 「ただ広いだけの風呂だと思っていたけど、こんな時は便利だな」 彼が手を伸ばして、壁のボタンを操作すると、足の方からジェットバスの泡が出てきた。 これなら、お互いの裸体をまじまじと見なくて済む。 しばらく並んだまま、柔らかいお湯の刺激を堪能する。 ジェットバスを止めると、私の肩に腕を回し、ちゅっとキスをしてきた。 顔を離すと、満足そうに微笑む。 「困った。帰したくないな」
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