帰したくない

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そう言いながら、背中に手が伸びてきて抱き寄せられる。 「どうしようか…」 そんな先生が可愛くなって、私からキスをした。 少し考えて、頭に浮かんだことを口にする。 「…一気にいろいろを変えると、関係が短命に終わるような気がする。  これからも一緒にいたいから、無理はしないほうがいい」 そう言ってみると、彼は私の頬に手を掛けて、キスをした。 「分かった。妃奈の言うとおりだ。無理は言わない。  妃奈も、俺と一緒にいたいと思ってくれてるんだな。今はそれだけでいい」 手を伸ばして、彼の顎に触れる。ちょっと髭が伸びてきてる。 「…この二日で、ずいぶん開拓しただろ?」 何のこと? と目で聞くと 「妃奈乃の身体…」 もう! と軽く頬をたたくと、彼の手に掴まった。 「次はどんなふうにしようか、楽しみで仕方ない」 「ちゃんと仕事してください」 「若い頃はこんな余裕はなかったな。自分の欲を満たすのに精一杯で…」 そう言って、ふふふっと笑った。 しばらくお湯の温かさに浸る。気持ち良すぎて、寝てしまいそうだ。 「もう上がる?」 頷くと、手を緩めてくれた。 「先に行ってて。出たところに着替えがある」 身体の前が彼に見えないように、ゆっくりとバスタブから立ち上がり、脱衣場に出た。 タオルで身体を拭いて、乾かしてあった下着を身につける。 用意されていた服を広げてみると、薄いピンクの部屋着にもパジャマにもなりそうなセットアップだった。 少しベージュ掛かった落ち着いた色で、襟元と袖口が白い切り替えになった上着に、同色のパンツ。 …どこまで用意してくれてるんだろう。 もし、私がなびかなかったら、どうするつもりだったのかな、と思う。 ベッドルームに行くと、髪をほどいて頭を振った。 …明日、家に帰ったら髪を洗わないと。 今日はとてもそんな体力はなかった。 喉が渇いたな、と思ってキッチンへ行き、冷蔵庫からミネラルウォーターを出すと2つのグラスに注いだ。 ついでに自分のスマホをポケットに入れ、グラスを持ってベッドルームに戻っていく。 水を飲み、ベッドに入ると上掛け布団を引き寄せ、スマホを見ながら彼を待った。 バスルームから出てきた彼は、Tシャツにスウェットパンツ。 「お、俺の分? ありがと」 そう言ってグラスの水を飲むと、リビングへと出て行った。 その後私は、知らないうちに寝てしまったらしい。 後で考えると、慣れないことの連続だから仕方ないか、と思うけど、部屋の主より先に寝ちゃうのってどうなの? と自分に突っ込みを入れたくなる。 布団が動いて、あ、彼が入ってきたな、と思っただけで、目は覚めなかった。
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