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先ほどのテーブルに座り、ちょっと落ち着こうと少し冷めた紅茶をいただく。
なんか突然のことで、状況に着いていけてないのだけど、隣に座る悠哉さんは落ち着いた様子で微笑んでいる。
「…ここ、何かで知ってたの?」
彼の様子から、何となくそう思って聞いてみる。
「実は、さっきの本の著者近影、こちらの方に撮っていただいたんだ」と男性カメラマンを見る。
「名刺をいただいたら、フォトウエディング、と書かれていたから、どんなのか聞いてみたら、ご自分のお店でこういう撮影ができると教えてもらって、一度、打ち合わせにお邪魔したんだよ」
「そうなんです、受賞作家さんとお聞きしたので本当に光栄で。
うちは着物をやっていないので、ドレスだけなんですけど。
彼女が撮影用のヘアセットもメイクもできますので、安心してお任せください」
カメラマンさんがそう言って、パンフレットを渡してくれる。
スタジオ撮影だけでなく、結婚式やイベントへの出張など、いろんなシーンを撮影しているらしい。
『フォトグラファー 石川笙吾』、『ヘアメイク 石川光俐』と載っているところを見ると、お二人はご夫婦らしい。
悠哉さんの本の写真は、すこしぼかした感じの屋外だったから、全く気付かなかった。
「…本当に、今日撮るの?」
私は悠哉さんに聞いてみる。
本来なら、事前に下見とか打ち合わせとか、するんじゃないだろうか?
「来月お会いするご両親にも、こういう写真をプレゼントしたいだろ?
ちゃんと飾っておける形にしてもらうのに、あんまり時間が無いんだ。
それに今日は特別な日だから…」
前に座っているお二人も、何となく、私の誕生日だと承知している様子だ。
「あの…、ちょっとお尋ねしてもいいですか?」
私は思い切って聞いてみる。
「このプランって、今日、急に変更していただくことってできないでしょうか?」
周りの3人が「はぁ…?」という顔をする。
「だって、せっかく撮ってもらうなら、2人一緒がいいもの。
私だけじゃなくて、悠哉さんも一緒がいい。ああいうの着て…?」
ずらりと並んだドレスの前に、男性用の衣装が2つ着せてある。
薄いグレーの三つ揃いと、少しくだけた感じのダークスーツ。
その後ろに、10着ほど男性の衣装が吊るされている。
すると、前に座っているお二人が、顔を見合わせてふふっと笑った。
「大丈夫ですよ。実は、今回のようにお二人で来られて、新婦さんだけの撮影と言われると、結局新郎も一緒に写ることが多いんです。
今日は貸し切りなので、時間は大丈夫ですから…」
そう言われて、悠哉さんが少し慌てた様子で「いや、俺はちょっと…」と言う。
「え~、そう言わずに付き合ってよ。私だけ着るなんて、良い顔で撮れないよ」
彼は少し考えて、「分かった」と言った。
「じゃあ、俺の着るのも妃奈が選んで…」と言うので、頷いておく。
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