ふたりだけの… 【60,000スター御礼】

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「純粋に嬉しい。あぁ、本当に結婚したんだなって…」 過去に結婚を意識して付き合った人はいたけど、どちらも実らなかった。 だからもう、仕事に生きるしかないのかな…と思っていたけど、結婚を諦めていた訳じゃない。 ただ、目の前の仕事に必死で、相手を探すような余裕がなかった。 仕事上の付き合いは、作家の先生と同僚くらいだから、もし悠哉さんが私を選んでくれなかったら、ずっと独り身だったかもしれない。 「悠哉さんは…?」 「俺も、嬉しい。妃奈が俺のところに来てくれて、毎日が充実してる。  これまでの自分を振り返ると、なんて味気ない毎日だったんだろうって思うよ」 そんなふうに言う彼の肩に凭れて甘えた。 「今、連載してるやつな…」 と言うと、うちの雑誌に連載している小説のことだろうか。 「今までになく、男女関係の要素が多いだろ?  妃奈が来てくれたから、ああいうのを書けるようになった。本当に感謝してる」 そういうと、彼は私の額にチュッとキスをしてくれた。 彼の器が大きいから、私は本当に自由でいられる。 そんなふうに言ってもらえると、少しは役に立ててるのかな、と思った。 ゆったりと過ぎていく時の流れを感じながら、ふと、ここを紹介してくれた石川ご夫婦のことを思う。 教会の話をしていたとき、「お二人の様子を撮影できなくて残念です」と笑っていた。 「この間も思ったんだけど、石川ご夫妻にもきっと、何かのドラマがありそうだよね。  そうやってすべての夫婦やカップルに、それぞれのストーリーがあるんだろうね」 スタジオがあった2階の奥に、二人の写真がディスプレイしてあった。 明治時代のような古いカメラを構えた笙吾(しょうご)さんの後ろに、あのクラシカルな綿のドレスを纏った光俐(ひかり)さんが一緒に写っていた。 悠哉さんは「そうだね」と言って、 「だからきっと、小説というものが売れるんだろうね。活字を追いながら、読者はみな追体験してる。  同じ本を読んだって、その人の中にある経験や知識を総動員してその世界観を確立してるんだから、きっと一人ひとり違う体験をしてるんだろうね」 お互いの得意なものを活かして、サポートし合いながら二人で仕事をしている。 仕事ぶりはそれぞれがプロであり、お互いに尊重しあっているように感じた。 そんなお二人の馴れ初めを、いつか聞いてみたいと思ってしまった。 「さて、行こうか。今日のお宿はどこ? プランナーさん」 先日発売された彼の本が、結構な売上を達成していた。 著名な賞を受賞した直後だったから、初めて彼の本を手にした読者も多かったと思う。 それで今夜は、お祝いをするために、ホテルに泊まろうよ、と誘ってあった。 もちろん今夜の経費は、私の財布から全部出す予定だ。 「うん、行こう。ホテルはね…」 私はいつもの仕事用バッグを肩に掛け、同じように荷物を背負った彼と教会を出た。
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