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少しだけ顔を離してそう言うと、彼は嬉しそうに笑う。
だからもっと愛し合いましょう、とでも言うように、彼の首を巻き絞め、キスをねだった。
「…妃奈、愛してる」
顔が離れると、鼻先が触れるほど近くで、彼がそう囁いた。
「もっと良い言葉がないか、いつも探してる。でも、一向にみつからない。
だから何度でも言うよ、妃奈の全てが愛おしくてたまらない」
それだけ言うと、また唇が塞がれた。
返事をしようと思ったのに、それをする余裕を与えてもらえないほど、優しく唇を食まれる。
離れて暮していた頃は、会える時が限られていたから、会えるたびに身体を重ねていた。
それが、一緒に暮し始め、日々の軽いスキンシップや、二人の生活の楽しさに満足するようになって、確実に回数は減っている。
昼はお互いの仕事や日常を過ごし、夜は一緒のベッドで眠れるだけで、それなりに満足できているんだろう。
でも、こうして時に激しく求められると、彼の私に向けた愛の深さを知り、私ももっと伝えたいと思ってしまう。
お互いの身体を繋げ、愛し合うことが、何よりもその気持ちを伝えることができるように思えてしまうのだ。
「こんなふうに裸で抱き合って、愛してると言いながらキスしてる私たちは、アダムとイブみたいだよね、きっと…」
私がおどけてそう言うと、彼も口元を綻ばせて笑った。
「ね、あっち…、見て…?」
私は窓辺のバスタブを指さして誘う。
「せっかくだから入ろうよ」
このホテルのウリは、『ビューバス』。
バスタブに浸かりながら夜景を見ることができるのだ。
シャワーを使った後でも、窓が曇っていないところを見ると、ちゃんとそういう加工がしてあるのだろう。
彼はそっちを見ると、「ゴメン、雰囲気壊した?」と困った顔をした。
「ううん、いいの…。何にもこだわっていないから」
私は笑ってそう言うと、彼の手を離れてバスタブに近づき、お湯を貯め始める。
横に置かれていたバスボムの中からラベンダーを選び、袋の封を切って中身を入れた。
彼はボディーソープを出し、身体を洗っていた。
私も自分の身体を洗うと、また天井からの霧のシャワーを浴びる。
大きく四角い窓の前に、丸いバスタブが据えられている。
窓の外が見えるように並んで座り、外を眺めた。
「裸で夜景を見るなんて、初めての経験だ。ネタを増やしてくれてありがとう」
彼は笑ってそう言うと、私の頭を引き寄せて、チュッとキスをした。
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