Honeymoon 前編 【77,777スター御礼】

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入籍して半年が過ぎていた。 いろいろなことが落ち着いたので、ハネムーンに行こうと悠哉さんが誘ってくれ、土日と使っていなかった結婚休暇を3日取って、5日間を確保した。 「せっかくだから、ちょっと遠くてもよその国に行くか、国内の良いところでのんびりするか、どっちが良い?」 そう聞かれて「最終日は家でのんびりして、仕事に向かう気持ちを作りたいから、国内で」とお願いした。 「じゃあ、まずは妃奈の実家へ挨拶に寄って、うちの親の墓参りもしてしまおうか」 彼の受賞、その後の写真雑誌への掲載と、何がなんだか分からないうちにいろいろなことが起こって、バタバタと入籍した感はあったけど、短くても彼と一緒に過ごした時間が、「この人でいいんだ」と教えてくれたような気がする。 こうして一緒に暮してみると、二人の時間の心地良さに、一人でいた頃の自分を忘れるほどだ。 …好きな仕事に就けて、こんなに毎日が充実しているんだから、別に独身でもいい。 そう思っていた。 出会いがなければ、いや、出会いがあっても相手がこっちを向いてくれなければ、結婚なんてできないのだ。 ただ、自分ではそう思えても親は、それなりの年齢になれば、結婚して子どもを持つのが当たり前、と考える世代な訳で、何となく肩身が狭いような気がして、もう何年も帰っていなかった。 年の離れた兄が結婚して、両親の近くに住んでいるので、将来の心配もない。 悠哉さんはずっと、私の両親に挨拶に行けてないことを気にしていたけど、そのあたりの事情はちゃんと伝えてあったし、「挨拶が遅い!」と怒るような家柄でもない。 初日、朝早くに家を出て、最寄り駅から新幹線に乗った。 スタジオで撮影してもらった結婚記念のアルバムと、父が好きそうなお酒、母の好きそうな洋菓子、彼は自著の最新刊を持参してくれたのだけど、「せっかくだからサインしてください」と言ってしまうような母だから、終始笑いが絶えなかった。 「私らの時はともかく、今はこんな時代ですから、娘がひとりでいても、親が何かしなければ、という思いはなかったんです。  ただ『老後までずっとひとりは寂しくないか?』とカミさんと話してたんです。  良い方と縁が繋がって本当に良かった。これからも妃奈乃をよろしくお願いします」 同じ会社に勤めて30年以上立つ父は、テーブルの向こうから悠哉さんに頭を下げる。 「老後までって…」 親としては心配だったんだろうけど、今それを言う?とツッコミを入れそうになる。 「僕の方こそ、妃奈乃さんとこうして一緒になれて、本当に感謝しています。  本来なら、入籍する前にご挨拶に伺わなければいけなかったのに、僕の都合でこんなに遅くなってしまい、申し訳ない気持ちでいっぱいです」 悠哉さんは真面目な顔で返してくれた。 日帰りでは行けない距離にある実家だから、こうして旅行の途中で寄れたのはとてもありがたかった。 彼はきっと、そのあたりも含めてルートを考えてくれたのだと思う。
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