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その後、また電車に乗り、今度は彼のご両親のお墓に寄った。
彼は一人っ子だったので、もうご実家は人の手に渡っているそうだ。
お寺に行く途中、お花と線香を買って、墓前に供えた。
親戚のお墓の中にそれはあって、墓石も綺麗になっていた。
彼はその場で、叔父だという人に電話をし、御礼を伝えていた。
「…俺が大学を出た頃、親父が急に心筋梗塞で亡くなったんだ。
別に疾患があった訳じゃなくて、残業や心労やいろいろな複合的な要素が絡み合ってたらしい。
そうしたら母さんもなんかおかしくなって、数年後に逝ってしまった。
若い頃も、俺を産むのが精一杯だったみたいだし、父に頼りきっていたから、心の支えが無くなってしまったんだろうな」
墓前で手を合わせてから、彼がそう教えてくれた。
「だから自分の時は、お互いに依存しすぎないように、と思う気持ちも確かにあった。
それで最初の時は、相手と上手に関係を作ることができなかったのかもしれないな」
ご両親の眠る前でそんなふうに言う彼の、左腕にそっと手を添えた。
寄り添って、線香の煙が昇っていくのを見守る。
「でも今は、こうして妃奈が隣にいてくれる。人生って判らないものだな」
彼は私を見返して、そう言うと口元を綻ばせた。
「さて、これからが新婚旅行だよ。心の準備は良い?」
彼は墓地の出口に向かいながら、腕につかまる私にそう言う。
「心の準備って?」
「俺に思いっきり甘やかされる準備さ」
「…いつも…そうだと思うけど?」
「何言ってるの? ハネムーンだよ? 砂糖10倍増しくらいだから、覚悟しておいて」
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