イッチ

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イッチ

 パララー パラララー(テゥッテゥルテゥー) パララーラパララー (テゥッテゥルテゥー)パララーパラパラー (デデデデンデンデン)パーラーラー♪  闘技場にトランペットの音が鳴り響く。勇ましい応援曲と沸き立つ観客の声援が老朽化した闘技場を揺り動かす。  ドーン!  選手の放った魔法で闘技場が震える。田舎の古びた闘技場だったが今この瞬間の選手達の輝きは支えようとなんとか踏ん張っているようだった。  観客は満員。選手達が剣や魔法をふるうたびに彼らは沸き立つ。試合は準決勝。シード権のチームが順調に勝ち進んでいた。 「ふふふんの彼方~魔王城へ、ふふふん背負い今旅立つネ~」  盛り上がりを見せる観客質とは別に選手控室は静かだった。選手達が次の試合に集中できるよう音が遮断されるつくりとなっている。それでも遮れ切れずに聞こえてくるトランペットの音だけが静かになり響いていた。 「必ずここへ帰ってくるネ、ふふふんふふふふん笑顔で答え~」  漏れ聞こえる演奏に合わせて鼻歌を歌うフェンフゥ。  彼のチームは既に準決勝を終え決勝進出が決まっていた。後は相手チームが何処になるかだ。今戦っているチームの勝利チームと戦うことになる。チームメイトのイッチとクレアは待ちきれずに偵察に行っていたがフェンフゥは控室で待っているところだった。 「あの2人上手くいってるカ? いってるわけないネ」  我知らず一人乗り突っ込みをするフェンフゥ。クレアはイッチに気があるために気を使ってやったのだがクレアは素直じゃないしイッチは馬鹿だし上手くいく可能性は皆無だろう。 「でもそれも青春ネ」  恋だとか愛だとか、フェンフゥにはよく分からない。故郷に戻れば農場をついて結婚が決まっている。それは義務であってそこに特別な感情はない。でもそういう感情を否定する気はない。せっかく仲良くなったのだから2人には上手くいってほしいと思っていた。 「まぁ無駄だろうけどネ」  噂をすれば影というか、まぁ噂はしていなかったのだけれど彼らのことを考えていたら丁度帰ってきたようだ。 「決勝の相手が決まったで! 」  控室のドアが勢いよく開かれイッチが入ってくる。野生児といった感じの少年だ。しかしこうみえても彼は今大会注目選手の一人だった。 「次の相手は色男のところや! 」  イッチが色男と言うということは勝ち進んだのは英雄の息子のチームだろう。男一人と女二人のチームなのだが男の方は前回の勇者パーティーの子供だった。貴族との子供でちょっとなよなよとしているが甘いマスクで女子達に人気がある。チームメイトの女二人も彼を狙っているのかしょっちゅうくっついて、それがイッチには気に入らないようだった。 「あれは姉弟らしいわよ」  一緒に偵察に行っていたクレアが後から入ってくる。  クレアはチームの紅一点。上級職の大魔導士。炎の魔法を得意としている。というか炎の魔法しか使えない。本人はそのことを気にしているらしいのでからかってはいけないが。 「片方は血がつながってないみたいだけどね」 「義理の姉とか。余計うらやましいわ! 」  自分だってクレアに好意を向けられているによく言えたものだとフェンフゥは思うのだが知らぬは当人ばかりなりだ。  イッチは怒りに任せてテーブルの上に置かれたバナナをつかむとむしゃむしゃと貪り食う。  もうすぐ決勝の試合が始まるというのに自嘲する気はないようだ。何か話しかけようかとソワソワしていたクレアは諦めて控室の隅っこで精神統一を始めた。それでいいのかクレア…というかこの猿が本当に好きなのかクレアとフェンフゥは心の中で思った。 「猿ネ。猿がおるネ」  そんなことを思っていたからだろう、つい口から本音がこぼれてしまった。 「だーれが猿やぁ!!! 」  すかさず突っ込みをいれるイッチ。手にはバナナを持ったままなのでキュポンと皮からバナナが飛び出しミサイルのように飛んでいく。フェンフゥは慌ててそれを振り払った。 「ちょっ。汚いネ! 手がグチャってなったヨ! 」 「なーにが汚いことあるか! ワイは今までそれを食っとったんや! 」 「だから汚いと言ってるネ! イッチの唾液が付いてるよ! ばっちいばっちいネ! 」 「なんやとコラァ!!! 」 「だから唾飛ばすなって言ってるネ! 汚いヨ!!! 」  絶対平和国家キングシスタァ…の片隅にあるヘイテン村では全国都市対抗勇者パーティ選抜地方予選大会が行われていた。勿論それはバナナのぶつけ合いの大会ではない。その名の通り全国108の市町村別に少年少女達が将来の勇者のパーティになることを目指し凌ぎを削るのだ。  試合は3対3のチーム戦で行われる。3人を前衛後衛に分けることで戦略性が生まれる。どのように分けるかは自由。制限時間内に相手を全滅させるか多く倒した方が勝者となる。大会はトーナメント勝ち抜き戦で地方予選を勝ち抜いた代表達が王都で行われる本戦に進む。そして本戦を最後まで勝ち残った勝者がキング・ブレイブ・オブ・パーティの栄誉に輝くのだ。別にそれで勇者の仲間に加われるとかそういうわけではないが栄誉が手に入る。  この世界のどこかに勇者は存在しているという。勇者が死ねば新たな勇者が召喚される。世界に勇者の尽きた日はない。勇者は7つの国を回り7人の仲間を集め魔王に挑む。志半ばで勇者が死ねばまた新たな勇者が召喚され魔王に挑む。それは魔王が倒されるまで延々と繰り返される。  7つの国ではそれぞれの方法で共に魔王に挑む者の選別が行われていた。国の長が不思議な力で直々に選ぶ国もあれば、そのために国を挙げて代表者を競い合わせる場合もある。逆に全く持って適当に勇者に気に入った者を選ばせる国もあった。ここ絶対平和国家キングシスタァは武力は許されない平和な国家だった。それゆえ争うことはスポーツでしか許されていない。勇者の仲間として研鑽を積むこともまたスポーツとして行われていた。しかし争うことを奪われた国民達にとってそのスポーツは自身の中に眠る血の疼きを満たす唯一の手段となり一大イベント国民行事となっていた。誰しもが勇者のパーティにならんと武器…もとい競技用具を握った。国民達は皆勇者のパーティを目指すという名目の元、血沸き肉躍る戦いの饗宴に酔いしれていた。  今回の大会も地方予選であるにもかかわらず観客は満員。生徒の家族や学院の関係者達が選手達に力の限りの声援を送っていた。  村のブラスバンド隊はブラスバンドの大会を辞退してかけつけ「宇宙勇者ヤマト」や「勇者3世」を演奏している。  パッパラパー、パーララー パッパラパー、パーララー パッパラパーラ パーララーラ パッパラパー パーララー(デレッデレッデレッ デレッデッデデ)♪  ネット裏ではスカウト達が魔力測定ガンを片手にかけつけ注目選手を視察に訪れていた。直接王宮に誘うため、はたまた貴族や寺院が囲い込むためだ。選手達が目指す最終地点は勇者のパーティとなり共に魔王を倒すことだが、そのためには王宮にある12のクランに所属しなくてはならなかった。クランは毎年、学園貴族寺院などから選手をドラフト指名する。クランに指名された選手には多額の契約金が手に入る。特に自由枠と言って選手側からクランを逆指名する制度を仕えば契約金の他に多額の金が裏金として流れることが暗黙の了解となっていた。そのほとんどは所属先の学園貴族寺院に流れるため、それらは一大ビジネスとなっているのだ。  地方大会とはいえ素質のある若者はどこにいるかは分からない。直接王宮のクランにドラフト指名されることはなくても貴族や寺院のお抱えとなり育成されれば数年後にドラフト指名されるような選手になれる者もいる。特に今回の地方大会ではドラフトで1位は間違いないと言われている選手もいるため近年で一番の盛り上がりを見せていた。
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