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「皆さん、ありがとうございました! スパークルでしたっ」
ステージを終えた恵玲菜は拍手に見送られつつ袖へはけた。後ろから深いため息が聞こえてきて、恵玲菜は肩をすぼめる。
「恵玲菜、さっきの歌なんだ? 高音かすれてるし、音ブレてるし」
「ごめーん、理人。次は気をつける」
汗を拭いつつ、ふたりで控室へ向かう。
控室とはいっても、他のグループと共同で使っていて、ふたりの区画は少し荷物が置ける程度だ。理人はギターをケースにしまい、荷物置きのスペースに立てかける。
「ね、でもさ。ラストの伸びは良くなかった? けっこう声出るようになったと思うんだけど」
「なに言ってんだ、まだまだだよ」
理人は恵玲菜を見下ろし辛辣な言葉を吐く。ちらりと見える八重歯が、どことなく残酷さを醸し出している気がした。
最近、言葉遣い荒くなったな。機嫌もずっと悪いし。けれど、恵玲菜はニッと笑みを浮かべた。
「うん、もっとがんばる。理人に認めてもらえるように」
明るめの声で告げる恵玲菜を一瞥し、理人はハァとため息をついた。
「なぁ、話があるんだけど」
「何? 直せるところあるなら教えて!」
「俺たち、解散しよう」
予想外の言葉に、恵玲菜は目を丸くする。対する理人は至極冷静に彼女を見下ろしていた。
恵玲菜は何度も瞬きを繰り返し、必死で状況を理解しようとする。
「…えっと、本気?」
「決まってるだろ。俺たちこのまま続けてても良いことない。お互いのためにも別れたほうがいいと思う」
「でも、約束したじゃん。武道館行こうって…。私、理人なしじゃ無理だよ!」
縋り付く恵玲菜に理人は冷たく言い放つ。
「別のバンドから声かけられたんだよ、ギタリストやらないかって。向こうのほうが条件良いんだ」
恵玲菜は雷に打たれたような衝撃に、言葉を失った。
理人が私を捨てるの? 条件が良いからって、私を見限るの?
理人はギターケースを肩に担ぎ、冷酷な目つきで放心状態の恵玲菜を見下ろした。
「悪いけど、これからはひとりで頑張って」
そして理人は恵玲菜の横を通り、出口へと行ってしまった。
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