call

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事務所の隅に追いやられている灰皿を取り、目覚まし草を口に(くわ)えながら、その電話の男の事情を聞いた。 「ならば警察に捜索願を出した方がいいと思いますが」 「そんなに大袈裟なことをしたらこっちは困るんだ。いや、とにかく探してくれればいい。早くしてくれ!」 「わ、わかりました。はあ、ではあなたのお名前と電話番号を教えてください。それから、女性の特徴は……」 用件だけを言い切ると、男は強い勢いで電話を切った。 話の内容をまとめると、だいたいこうだ。 ・男の名前は、粕川朋也(かすがわともや)。三十九歳。隣町にある小さな工場の社員。 ・妻の名は、瑠那(るな)。専業主婦。歳は離れているが、笑顔が明るく優しい素直な女性。 ・いなくなったと気付いたのは、今朝。目が覚めると、家のどこにもいなかった。横たわっている子どもには、妻のセーターがくるまっていた。 ・粕川(夫)に黙って外出したことは一度もない。 ・粕川(夫)は、瑠那(妻)のことを愛している。 子どもがいるなら、そう遠くには行かないはずだ。俺はそう(たか)(くく)っていた。
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