14人が本棚に入れています
本棚に追加
事務所の隅に追いやられている灰皿を取り、目覚まし草を口に咥えながら、その電話の男の事情を聞いた。
「ならば警察に捜索願を出した方がいいと思いますが」
「そんなに大袈裟なことをしたらこっちは困るんだ。いや、とにかく探してくれればいい。早くしてくれ!」
「わ、わかりました。はあ、ではあなたのお名前と電話番号を教えてください。それから、女性の特徴は……」
用件だけを言い切ると、男は強い勢いで電話を切った。
話の内容をまとめると、だいたいこうだ。
・男の名前は、粕川朋也。三十九歳。隣町にある小さな工場の社員。
・妻の名は、瑠那。専業主婦。歳は離れているが、笑顔が明るく優しい素直な女性。
・いなくなったと気付いたのは、今朝。目が覚めると、家のどこにもいなかった。横たわっている子どもには、妻のセーターがくるまっていた。
・粕川(夫)に黙って外出したことは一度もない。
・粕川(夫)は、瑠那(妻)のことを愛している。
子どもがいるなら、そう遠くには行かないはずだ。俺はそう高を括っていた。
最初のコメントを投稿しよう!