2杯目は貴方の好きなお酒を

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 学生の時とは違い、社会人だからか終電より何本も前に飲み会はお開きとなった。友人のひとりとは最寄り駅まで一緒だった。 「楽しかったぁ……」 「そうだね。久々に会って飲むと楽しいね」  改札を出ると、ふと見えたその姿に驚き、一瞬足を止めてしまう。  確かに連絡は入れたが、迎えに来るとは思っていなかった。 「ヒナ?」  足を止めた自分に、友人が不思議そうな表情で、自分が見ている方向へ視線をやる。 「悪い……邪魔するつもりはなかったんだ」 「あ、もしかして……」  飲み会で話した同棲している恋人だと気が付くと、上から下までしっかりと見ると、勢いよく肩を掴んできた。 「何このエロカッコイイイケオジ!? お前、興味なさそうで、面食いだったのか!? なぁ!!」 「いや、あの、違うって……」  動揺具合は、掴まれる腕によく伝わってくる。  残念なことに、まったく否定ができないので、なんと言葉を返すべきか迷うことしかできない。  たらふく飲んだ酒も相まって、見事に吐き出しそうだ。 「…………もう遅いし、お嬢さんも近くまで送っていこうか?」  しかし、マーライオンと化す前に、やんわりと間に入って隼人が止めてくれる。 「へ、あ、いや、えっと、大丈夫です! 逆方向だし、家近いので!!」  聞き慣れた口説き文句に、距離を取る友人は、こちらをすごい勢いで振り向いたが、なんとも微妙な表情になると、もう一度隼人に目をやり、渋い表情で悩み、頷いた。 「ヒナ、彼氏の情報はさ、ゆっくり少しずつ解禁しない? 処理が追い付かない」 「情報のほとんど、実物見てからじゃない?」 「前情報も大概だったからな!?」  動揺した様子は、明らかに先程の方が居酒屋での話よりも大きかったが、友人は一度咳払いすると、もう一度しっかりと隼人に礼をすると、こちらにも手を振って、階段を降りて行った。 「俺の事言ったのか?」 「言ったというか、みんな気づいてた」  夜道をゆっくりと歩きながら、今日の飲み会の話をする。 「バイト先の常連のプレイボーイと付き合ってるって言ったら、遊ばれてるからやめた方がいいって」 「紹介が悪すぎる……そりゃ誤解されるな」  先程、友人から微妙に警戒したような気配を感じたらしく、少し疑問だったらしい。プレイボーイと伝えられていれば、女なら少なからず警戒する。  通常な反応であり、むしろ自分の彼氏をプレイボーイだと紹介する目の前の彼女の方が問題がある。 「事実では?」  バイト先のダーツ&ビリヤードバーの常連で、店に来た女性客に声をかけて、お持ち帰りをするプレイボーイで、就職でバイトをやめる日に最後に一杯と声をかけてきた男。  それが、目の前の隼人という男の説明だ。 「………………前半はな」  長い沈黙の後、小さく呟かれた言葉に首を傾げれば、大きく息を吐き出しこちらを見た。 「うまいレモンサワー作ってやるから、プレイボーイのところ消せ」  10以上離れている彼女に一夜限りの関係ではない付き合いを申し出るなど、どれほどの心持ちか、彼女はきっと知ることはないだろう。 「ふーむ……なんて魅力的な要求なんでしょう。でも、今日はロックのウイスキー飲みたいな」  そういえば、驚いたように目を見開き、静かに柔らかく細めた。
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