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記憶にあるよりも幾分か静かな店内。
しかし、このざわつきは久しぶりだ。
「結婚式呼んでよ!?」
「いや、身内だけで小さくやったんだって……本当は籍入れるだけって考えたけど、記念だからって」
「そりゃそうだよ! 写真は!?」
4年も対面で会えなければ、リモートで会話しているとはいえ、色々変わっているもので、名前に、働いている会社など、画面ではわかりにくい服の趣味とか。
「そういえば、ヒナは? 一緒に暮らしてるんでしょ?」
「へ?」
予想外に向けられる視線に、つい首を傾げてしまう。
隼人のことは、会社どころか友人たちにも言っていなかった。
そもそも付き合ったのだって、大学卒業後だし、リモート中も近くにいても、画面に移らないように動いてくれていたし、話す時も音声が入らないように小声で話している。
だから、気づいていないとばかり思っていた。
「いや、さすがに気づくって。永遠に無くならない酒とつまみなんてないわ」
「というか、ゲームしてる時に、たまに話してるよね?」
「あー……うん」
隠していたわけではないが、リモートでも結構見られていることに驚きは隠せない。
「会社の人?」
「ううん。大学の時のバイト先の常連」
「はい? ちょっと詳しく」
何か気になることを言ったのか、全員の目が鋭くなる。
「別に、バイトやめるって時に、常連さんに呼び止められて、最後に一杯って奢られて……そこから?」
「恋愛初心者には、ちょっと何を言っているかわからないんですが、既婚者からの意見は?」
「アンタのバイト先って、ダーツバーじゃなかった? パリピの集まりじゃん。アウトだよ」
「すごい語弊がある……」
給料も高くて、大学の講義にも被らない。カクテルの練習と称して、酒を飲むこともたまにできて、ダーツやビリヤードもできる楽しいバイトだ。
「まぁ……確かにプレイボーイって有名だったけど」
「は……?」
「きれいなお姉さんに声かけてお持ち帰りしたの見たことあるし。余裕のある大人な男性って、本当に人気なんだなぁって思ってた」
ほとんど成功していたけど、たまに失敗して、私に慰めてほしいと声をかけてきては、店長に睨まれていた。
「待って待って待って。マジで付き合ってるんだよね? ただの、その……ヒモじゃないよね? 遊ばれてない?」
「つーか、年上? 色々と大丈夫? 心配なんだけど」
「いや、そもそもプレイボーイってわかってるのに付き合う? そういうタイプだったっけ?」
本気で心配していそうな目を向ける友人たちの圧に、少し頬をかく。
彼女たちの言葉は全くもってその通りであり、当時の私も正直、遊ばれていると思っていたし、高いお酒を奢ってくれる人程度にしか思っていなかった。
今も同棲こそしているが、浮気なんて疑う気すら起きない。ワンナイトなんて当たり前だろうし。
「大丈夫! 結婚してないし、してたらしてたで、慰謝料ぶんどって遊んで暮らす!」
だから問題ない。と、親指を立てれば、三人が同時にため息をついた。
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