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 いつもいつも、入学してからの半年以上ずっと。  さり気なく受け流すのは無駄だったから何度もはっきり断ったにもかかわらず、まったく懲りない仁科。  呼び名だってそうよ。名前で呼ぶなってもう数え切れないくらい繰り返した。 「こいつには何言っても無駄だ。相手するだけ喜ばせるだけだ」  そういう結論に達した私は仕方なく諦めて、それ以来仁科を完全無視してた。『光沙』ってこの男の口から出るたびに寒気がする。  これ以上何をどうすればいいんだろう。もういい加減にして欲しい。  視線さえ向けることのない私を気にもせず、仁科は平然とすぐ前の席に腰を下ろした。  座席指定じゃない講義では、隣に絶対座られないよう私は常に一番端の通路側の席を取る。そのために毎日早めに大学来てるのよ。  隣の席には、大抵桃子が陣取ってくれてた。彼女がいなければ、わざわざこのために持ってる大きな黒のトートバッグを置いてるわ。椅子ひとつ占領できるように。  なんでここまで余計なことに気を回さなきゃならないの?
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