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「あ、光沙──」  講義終了と同時に間髪入れずに席を立ち、駆け足でドアに向かう私の背中に仁科の声。横の桃子が無言で顔を顰めている。  多分私も同じか、より酷い顔してるんじゃないかな。  次の講義は、幸いあいつとは別だった。一年生の間は選択でも必修が多くて空きコマもあまりないから、この時間だけは気楽だわ。  桃子と連れ立って小教室に入り、適当な席に腰掛けた途端力が抜けた。それだけ気を張ってたってことか。 「あの、さ、桃子。高校の時あいつみたいなのがいたって言ってたけど、どうやって逃げたの?」  決していい思い出じゃないくらい考えるまでもないから、これまでは触れないようにしてた。  でももう限界が近くて訊いた私に、桃子は気負いなく答えてくれる。 「最後は親が出たわ。『娘がクラスメイトに「嫌がらせ」されて苦しんでる。そのせいで受験に失敗したら責任取れるのか!?』って父が学校に抗議に行ってくれたの。『警察に被害届も考えてる』って脅し掛けてたよ」  ……そこまで大事(おおごと)になってたなんて、予想外だった。  相槌の打ちようもない私に、桃子が笑みを浮かべたまま続ける。
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