いつもの日常

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いつもの日常

経済誌の写真を見てから、僕の思考は少しだけ停止した。 8年が過ぎてもまだ、彼のことを好きだと改めて感じていた。 あれは自分が作り出した妄想だと納得したはずだったのに・・・・・ まだ疑う自分がいた、やっぱり3年間一緒に住んでいたんじゃないか・・・・ 写真で見た彼の笑顔を思い出すたびに胸が疼き悲しい涙が溢れ出す。 気を取り直して研究室へ行く、若い学生たちに取り囲まれると自然と笑みがこぼれた。 研究室はいつも学生たちに占拠されている・・・・僕のことを守るための親衛隊と名乗る学生たち・・・・・ 「薫先生って、なんだかほっとけないんだよな」 「大丈夫かなって思っちゃって・・・・・庇護欲搔き立てまくり」 「笑ってるのに泣きそうな顔に見えたりさ、ほんと薫先生って俺より年下なんじゃないかって思う時があるんだよね」 「僕もそんな感じ…・薫先生って誰かが守らなきゃ消えてしまいそうなんだ」 「君たち僕の事そんな風に思ってるの?僕もう30だよ」 「歳は関係ない、薫先生は僕たちが守ります」 「はいはい、ありがとう!それよりレポートは提出したのかな?」 「先生・・・・・もう少し時間ください」 「ダメ」 僕の日常は学生たちに助けられているといっても過言ではない、ここにいると余計なことは忘れてしまう・・・・・ 学生たちが僕の感じる庇護欲はきっと僕の心の不安定さを無意識に感じているからだろう・・・・自分でも心がどこかへ行ってしまう時がある。 無意識に現実逃避をしているのだろう・・・・ 大学時代のことも卒業してからのことも自分の事なのに記憶を失くしたようにその時期だけがぽっかりと抜け落ちている・・・思い出しそうで思いだせない・・・・思い出さないように封じ込めてしまった記憶・・・・そんな気がして・・・・だったら無理に思い出さないほうが身のためだと自分に言い聞かせる。
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