絵になる

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「他にもこちらに滞在中作品を課題として仕上げてもらい、視聴者投票により選ばれた方には贈られるものが色々とあります。賞金や個展や商品化の権利などですね。傑作探しもいいですが、そちらも疎かにならないようお願いします」 こんなチャラついて見える番組には美術界も大きく注目していて、おかたい美術団体がスポンサーだったりする。それは若者に美術に親しんでもらいたいがためだけど。 そうだ、だから私も呼ばれたんだった。 「では、まずは自己紹介をしてもらいましょう。若い方から……hikariさん。最低限、活動している名前と年齢と専攻をお願いします」 名前を呼ばれて、私は暖炉の前に移動した。そして雨宮さんに渡されたマイクに語りかける。 「hikariです。スタンプやグッズなどで『あいすくりんうさぎ』というキャラクターを描いてます。高校二年生です」 ラフにくずしたおさげの髪にカメラ用にメイクされて少しはパッとした平凡な顔立ち。公立高校の夏用女子制服を着ている。それが私。 芸術家というよりはたまたま趣味の絵が売れたイラストレーターだけど、多分知名度は参加者の中で一二を争うだろう。 どうやらこのCrystal、芸術家の後継者といっても絵画や彫刻などが得意な人だけから選ばれるわけではないらしい。少しでも若者に興味を持って欲しくて、私のような知名度ある者が選ばれた。私としても父親が番組制作に関わっているし、すでに何度か取材に応じた事もあり慣れている。 「『あいすくりんうさぎ』、僕もスタンプ使ってます。可愛いですよね」 「ありがとうございます」 雨宮さんのような大人の男性でも知っているのが私のキャラクターだ。 とにかく最初の自己紹介のわりにうまくできた。とくにでしゃばらず偶然売れたどこにでもいるような高校生を演じられたと思う。 私は美術の事はわからないし人の思う傑作なんてもっとわからないけれど、私が求められているのは知名度だろう。遺産なんて手に入らないだろうけど、適当に画面に出て父の面目を保ちつつあいすくりんうさぎを売り出すつもりだ。
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