絵になる

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普通、テレビ局というのは自分達スタッフが一番偉くて私達素人に対して『テレビに出させてやってるんだからありがたく思え!』と言うようなスタッフも少なくない。リアリティーショーだと物語を作るために悪役を決めて煽ったりする、なんて悪い話もあるほどなのに。まさか外出にも気を使ってくれてるとは。 このあたりは別荘地で人の気配はわりとある。バスに乗るか、かなり歩けば栄えた街もある。なのに絶対に送るというのは手厚すぎる。 「念の為、です。もちろんバスも利用できますが、頻繁に来るわけではないし、その間迷ったり不審者に出くわす可能性があります。まず安全のため、スタッフに声をかけてから行動して下さい」 宇野さんはとても誠実に答えた。 ……本当にこれはリアリティーショーかと思うくらいに手厚かった。まぁ、世界のリアリティーショーだとかなり手厚いものらしいし、私達未成年もいる。これくらいはするだろう。 「最近は色々と厳しいし、そういう時に一番に叩かれるのはスポンサーだしね。スポンサーのためにちゃんとしてるのかも」 ふらみんさんも私と同じ事を考えていたらしい。私以外には聞こえないよう小声でつぶやいた。 「なんつーか、これが推理小説なら殺人事件でも起きそうだな」 「ある意味陸の孤島で、スタッフの証言さえなんとかすれば……だものね」 クロさんが不吉な事を言って、青柳さんがさらに不吉な事を言う。 「俺はゾンビモノが好きー」 別の意味で不吉な事を太陽さんが言った。確かにこんな立派な別荘、ミステリーかゾンビ映画でしか見たことがない。そうなると思ってしまう。何か事件が起きるのでは、と。 ■■■ 今日の夕食はやたら広い庭で親睦会代わりにバーベキュー。 スタッフ出演者が入り混じり、お肉を焼いたり食べたりとしている。 太陽さんはアウトドアに強いのかテキパキコンロや火をつけたりするし、青柳さんは意外に料理が得意で下ごしらえを手伝っている。ふらみんさんはこの場にいる全員がちゃんと飲み食いできているかを確認しながら会話し写真を撮っている。 クロさんはやせてるからって山盛りにされた肉野菜と格闘している。 私も色んな所でこまごましたことを手伝ったり、父とと一緒に仕事をした事があるスタッフさんと話をしたりした。 結城君は……よりにもよって庭の外れにある洋風の東屋で一人でぽつんとしていた。薄暗くなった山やその下の街並みを見ているといえば聞こえはいいけれど、つまりはぽっちだ。 「hikariちゃん。これ、結城君に持ってってくれる?」 そうなるとふらみんさんは絶対に気付くしなんとかする。ペットボトルのジュースを二本私に差し出した。 「お願い。彼、今のかんじに孤立しちゃうと番組的にまずいの。同じ高校生ってかんじで話しかけてきてくれない?」 「いいですけど、一人なのってそんなまずいですか?」
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