大西竜太郎の壁

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大西竜太郎の壁

 まず一人目のターゲットは三年三組の大西竜太郎(りゅうたろう)。  こいつは大雑把でがさつで鈍いから手紙の存在に気付かない可能性が高い。まずロッカーを開けることをしなさそう。だが、学校に来るのが異様に早い。  大家族の長男であるために、忙しい両親に代わって下の三人の弟たちを学校に送り届けてから来るという意外といい子ちゃんなのだ。がさつだけど。 「大西ーッ!」 「んぁ? おぉ、隼人! おはようさん!」  猛ダッシュで大西のクラスに行けば、やはり大西はすでに来ていた。勢いよく扉を開けたせいで爆音が教室に響き渡り注目の的になるも、大西は気にせずけらけら笑っていた。  あぁ……こいつが怒るとあんな静かになるんだな……。 「隼人がこの時間に来るの珍しいな!」 「まぁな! ……大西、お前、それ」  大西の机には、なぜかノートが置いてあった。こいつは置き勉勢。ノートを取るのにはロッカーを開けることが必須……。 「んはは! いやー課題しなさ過ぎてついに先生に怒られてさぁ」 「ろ、ろっかー……」  やっぱり開けたのか、ロッカーを……。  見られた? いや、でもこいつの様子はいつもと一緒。あの夢みたいに冷たくない。 「でもめんどくさいから開いて閉じたわ!」  大西はそう言っておもむろに立ち上がってはロッカーの方へと向かっていった。  気づくのに一瞬遅れた俺は、制止もできずロッカーを開ける大西を見ることしか出来なかった。  大西は無遠慮にロッカーを開けてそのノートを放り込む。だけど、ロッカーを覗き込むことなくそのまま閉めた。 「ちょお、オレ便所行ってくるわ! なんか用事あったんならその後にしてくれ!」  教室中に響き渡る声で宣言し出ていった大西に、これ幸いと急いでロッカーを開けた。  ものがぐしゃぐしゃしているそのロッカーの中に投げ込まれた先ほどのノート。そのノートに挟まるように鎮座する封筒があった。それを取り出せば、ノリでしっかり貼られ、開封された痕跡がない。 「み、見られてない……!」  あいつノート取る時もしまう時もロッカーの中ちゃんと見てなかったのか。そもそも汚すぎて手紙の存在に気が付かなかったのか。  何はともあれ、見られていないのならオールオッケー。一人目のターゲットは無事クリア。  がさつすぎてノートが可哀そうだと思わなくもないけど、今この時ばかりは大西ががさつでよかった。あほでよかった!  貸した辞書が折れ曲がってたことは許してやるよ! 時刻はただいま八時五分。残りターゲットは二人。このペースで行けば……。 「そう言えば隼人!」 「うわ! びっくりした! 急に話しかけてくんなよ!」  トイレに行っていたと思われていた大西がドアからひょこりと顔を出す。  あまりの唐突さに思いっきりロッカーを閉めてわかりやすく手紙を背中に隠してしまった。だが、大西はそれも気にしないらしい。  がさつ通り越して目、節穴なんじゃね? 「で、なに?」 「さっき堀来てたけど、お前、待ち合わせでもしてんの?」 「は? ……あいつもう来てんの!?」
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