堀北大智の壁

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堀北大智の壁

 今までに無いほど早く廊下を走る。他生徒たちの視線が突き刺さっても、俺は足を止めなかった。  周りがどんな目で見てこようが今の俺には関係ねぇ。それよりもまずいことが起こることを阻止するためには今気にしてられねぇんだ! 動画撮ってる女子! 今の俺の急ぎ具合に感謝しろよ! 神様に感謝しろよ!  大西と俺のクラスの上の階にある堀北のクラス。たどり着くころには息も絶え絶えだったが、何とか教室までたどり着くことが出来た。  だけど、堀北はすでに教室にいて、さらにはロッカーを開けようとしていた。 「堀北ーーッ!」  もうすでに限界を迎えている足に鞭打ってさらに加速する。  大声で名前を呼べば、堀北はうざそうに振り向く。その瞬間、無理を強いた足がもつれて盛大に転んでしまった。 「ぶぇ!」  勢いがよかったために、ただ転ぶだけでは済まずそのままスライディングして堀北の教室へと入場。  今おそらくこの教室全ての視線が刺さっているだろう。祝福してくれてるみたいだ……。 「へへ……走る手間が省けたぜ……」  ゆっくりと起きあがれば、堀北と目が合う。その視線は汚いゴミを見るような目だった。 「おう、堀北!」 「どちら様ですか」 「まてまてまて! まぁ待てって!」  侮蔑に軽蔑を重ねて憐れんだ様な目をする堀北は、俺の存在を無視してロッカーに手を伸ばそうとする。  バカお前! せっかく注目されてんだぞ! 学年一美女の荒牧さんだって見てるんだぞ! 「なんだよ……お前に付き合ってる暇ねぇんだけど」 「なんでだよ! いつでも暇じゃねぇか!」 「テスト勉強しねぇバカと一緒にすんな」  心に刺さる堀北の言葉に、思わず身を引きそうになる。だがここで負けてしまえば、これ以上の傷を負うのを俺は知ってる!  神様に教えてもらったからな!  現在時刻は八時八分。いつも南条が来るのは八時十分。……あと二分で堀北のロッカーから手紙を救出しなければ手遅れになってしまう。  だけど、堀北は頭がいいからこその難敵。大西と同じようにはいかないことは分かってる! 「ノート貸してくれ! 俺も勉強すんだよ!」  こいつをこの場から去らせることは俺には不可! だったら無駄に時間を使うことなく手っ取り早く回収するのみ! 手紙の中身を見られなければこっちのもんだ!  そうロッカーを開けようとすれば、バンッ! と大きな音が鳴った。  堀北の手が、勢いよくロッカーを抑えている。 「勝手に人のもの触んなよ」  絶対零度の眼差しと声色で静かに怒られる。  そうだった。こいつ他人の物は触るくせに、自分のものを勝手に触られるのが嫌だった。……それってロッカーも入んのかよ……。厄介な奴だとは思ってたけど相当だな……。 「お前勉強しないだろ」  さらに正論を言われてしまえば言い返すことも不可能で。だけど、あの夢を見たおかげでまだ体は動かせる。  夢の中の堀北はマジで怖かった。 「頼む! ちゃんとするから!」 「そう言ってしてねぇのを何回も見てんだよ」 「ぐ……今回はやる! ちゃんとやる! 真面目にやる!」 「おい、だから勝手に触んなって」  ロッカーを無理に開けようとしても、堀北の力が強すぎて開けられない。  現在時刻は八時十分。まずい、これ以上はここに居られない。早く南条の所に行かなければ。 「あ? なんだこれ」 「え? ぉわ!」  時間に気を取られた隙に、堀北が開けたロッカーから手紙を取り出していた。  その手紙を不機嫌そうに眺める堀北の手から奪い取れば、鋭い視線が突き刺さった。 「だから勝手にとんなって」 「これはお前のじゃねぇから!」  中身を確認すれば、封筒の中には無事手紙が入っていた。  よかった。これで堀北の分は回収できた。後は南条の所のみ。すでに南条は来ている可能性の方が高い。早めに……。 「誰かが俺のロッカー勝手に開けたってことだよな」 「え?」  ガッと肩に腕が回ってくる。力強いその腕を辿れば、怒った様子の堀北の顔。  ……あれ、これはもしやまずいやつでは? 「おい東雲。その手紙開けろ。誰がロッカー開けたか確認してやる」 「え、いや、……」 「いいから開けろ」  相当ご立腹らしい堀北に手紙を奪われそうになる。  ダメだ、これは絶対にダメだ。見られたら俺が終わる。絶対正夢にさせるもんかよ! 「堀ー」  ぎゅっと手紙を抱え込めば、天使のような声が聞こえてきた。  まるで時がゆっくり流れるような感覚を覚えながら教室の扉の方を見れば、そこに立っていたのは南条。 「あ、やっぱり隼人もここにいたんだ」  駆け寄るようにやってきた天使……否、南条に、堀北の拘束が緩む。 「どうした、(りつ)」 「堀に前借りてたプリント返そうと思って」  堀北お前、やっぱり南条には貸すのかよ! 甘すぎだろ南条に!  言いたいことはたくさんあるが、今この場に南条がいるのは好都合。抜け出すなら今! 「あ、おい東雲!」  来た時よりもスピードを上げてその場から離れる。  後ろから堀北が何か文句を言ってるが今は聞けない。放課後たくさん聞くからな! そのために俺は今やらなくちゃいけねぇことがあるんだ!
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