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南条律の壁
「な、ない……!」
南条の教室について真っ先にロッカーを見たのに、そこには手紙が存在しなかった。
綺麗に整っている南条のロッカーは、埋もれているなんてことはない。南条が見つけてしまったということだろう。
いや、南条のロッカーは良くいろんなやつらが開ける。特に大西、堀北は躊躇なく開けるやつらだ。堀北は今まで一緒に居たからないだろうが、もし、大西が何かを借りに来ていたら……こんな綺麗なロッカーで見つけない方が難しいだろう。
「最悪だ……読まれた……」
確かに誕生日を祝ってほしかった。友達からもらうのは嬉しいが、いつも一緒に居るこいつらにもらいたかった。ただ一言「おめでとう」と言われるだけでよかったんだ。さらに追加で言葉がもらえるなら嬉しい。
だけど、あいつらとの縁が切れるなら「おめでとう」なんていらない。いらないから、別々の道を行くその時まで、一緒に居たかった。これが気色悪いって思われんのかな……。
「隼人?」
「うおぁ!」
ぽん、と肩に手を置かれ、俺は大げさすぎるほどに飛び跳ねた。しんみりした心臓に急な刺激は良くない。思わず涙が出るところだった。
「ごめん、そんなびっくりされるとは……」
申し訳なさそうに、でも微かに笑っていたのは南条。
南条は常に優しかった。くだらないことで喧嘩する俺らの間に入っては仲を取り持ってくれたりもする。きっと南条がいなければ、俺らは取り返しのつかない喧嘩をいくつもしていただろう。
そんな南条も、あの手紙だけは擁護できないんだ。……あぁ、むしろそんな手紙を書けた俺、天才じゃね……?
「隼人、これ」
現実逃避しだした俺の目の前に差し出されたのは、見慣れた封筒。俺がしたためた手紙だ。
「こ、これ……!」
「安心して、読んでないから」
南条を見れば、眉を下げて困ったように笑っていた。
「堀の所で騒いでたから、読まれたくないのかなって」
「な、南条……!」
読んだ読んでないの区別はつけられないが、南条が読んでいないというのなら読んでいないのだろう! なんて言ったって! 目が! 逸らされない!
「お前はほんと……天使だなぁ……!」
「そんな大げさな……でもよかった」
これで手紙を全て回収できた。しかも、誰にも読まれていない。
今日のミッションはコンプリートだ! よくやった十八歳の俺!
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