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小六だったかなぁ?
習字の教室で……
「「よろしくお願いします」」
合図とか揃える気もないのに同じタイミングで先生の前に行って、挨拶をしてからかばんを置いていた机に戻ると、
「優!俺、ちょっと約束してるからさ!お前、俺のフリもして出しといてくんない?」
お前は座りもしないでかばんを持って出て行った。
「優人!匡人の言うことなんて聞かなくていいよ!サボって帰った、って先生に言ってやろう?」
すぐにいつも俺とお前を見分ける幼なじみ、由紀はお前の後ろ姿を睨んで怒り出したけどな。
「いいよ。ここは先生からは襖で半分見えてないし、俺が六枚書けばいいんだから」
準備を終えた俺は由紀を止めて姿勢を正す。
目を閉じて息をゆっくり整えてから目を開いた。
真っ白の半紙を眺めて筆を持つ。
墨をつけて書いていく時の静寂。
仕上げて筆を置いた瞬間の充足感。
俺はこの時間が好きだった。
ニ枚を先生に持って行き、“合格”を合計三枚もらえばかかった時間は関係なく帰ることを許される。
あの日、習字に行く前に一度俺の部屋に来たのは服を同じにするためだったんだよな?
すぐに三枚ずつ、合計で六枚の合格はもらえたよ。
でもな、先生は……
「ありがとうございました」
片付けて挨拶に行くと、いつもは頷くだけなのにすぐに顔を上げた。
「優人、匡人によろしくな」
って。
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