6

1/1
前へ
/10ページ
次へ

6

「えっ? 万結が妊娠?」  思わず大声になり、辰巳はスマホを握りなおした。 「そうなの、私も驚いたわ。でも間違いないって」  母の声色は思いのほか明るかった。  辰巳は首をひねった。万結とはもう何年も夫婦関係がない。俺の子じゃないんじゃないか……  あいつにそんな相手がいたのか? 考えを巡らせるうちに、はっとした。国会が始まる前、地元の後援会主催の壮行会で泥酔した。家に着くや菜々美を探したが見つからず、久しぶりに万結の部屋に行った。酔いすぎて記憶はおぼろげだが、朝目覚めて、隣に万結の白い背中があってぎょっとした。まさかあのときか…… 「もしもし、聞いてる?」  母の声に我に返る。 「あ、うん……」 「あなたもお父さんなんだから、しっかりなさい」  そういって通話は切れた。  あんな母でも初孫は嬉しいのか。辰巳は釈然としなかった。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

13人が本棚に入れています
本棚に追加