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この年の九月、平井家に二つの祝い事が重なった。一つは、万結が無事に健康な男児を出産し、平井家に戻ってきたこと。もう一つは、辰巳がデジタル庁副大臣に任命されたことだ。前任の副大臣に納入業者との贈収賄が発覚し、更迭されたのだ。内閣は十月に開会する臨時国会に備え組閣を見直す必要に迫られ、辰巳に白羽の矢が立った。
節子は、ベビーベッドで寝息を立てる孫に話しかけるように、
「あなたは幸運の天使ちゃんね。あなたが産まれてすぐ、お父さんが副大臣よ」と、頬をゆるめた。
「そんなお義母さん、辰巳さんの実力ですよ。ねえ、あなた」
「あ、まあ……どうだろう」
母の変わりようと万結の態度に辰巳は馴染めず、居心地の悪さを拭えなかった。
同じころ、東京の出版社に市原菜々美の姿があった。
菜々美は出版社の会議室で数人の編集者を相手に、赤裸々な告白をはじめていた。菜々美の告白に、編集部は色めき立った。
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