恋色に染まってオツ

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「何やってんだ? お前」  代わりに親友の大賀が目の前にいた。奴は不思議そうな顔をしていた。  そりゃそうだ。奴から見たら意味不明だからな。  でも仕方がないんだ。  だって俺は、今まさに彼女と妄想同棲している真っ最中なのだから――。 「おいっ!」  突然、頬に強い衝撃を受けた。 「起きろっつーの!」  今度は腹に強い一撃が来た。 「起きてる……よう」  俺は蛙のような声を出しながら、その場で悶絶した。  大の字になって地面に寝転ぶ俺。 「正気に戻ったか?」 「……多分」  大賀が心配そうな表情をしていた。 「大丈夫かよ。顔面が血に染まってるけど」 「ちょっと……現実逃避してただけだ」 「現実逃避?」 「……ああ」  俺は身体を起こし、辺りを見渡した。 「彼女……」 「お前が女のことを口にするって、大月加奈子のことか?」 「俺はダメだ。現実の彼女を目の前にすると、冷静でいられない」 「そっか」 「だから、彼女には俺色に染まって欲しかった。妄想の中の彼女のように! そうすりゃ、俺は俺らしく彼女の前で振舞える」 「……いや。もう十分お前らしく振舞っていると思うぞ」 「どうしたらいい?」 「え?」 「次にどうしたらいいと思う?」  俺は親友にすがった。もう恥も外聞もあるものか。恋の成就のためなら、土下座してでも、なんだって利用してやる。それが恋ってもんだろ? 「う~ん……」  大賀は腕を組みながらしばらく考え込んだ後、口を開いた。 「とりあえず、謝れよ」 「誰に? 何を?」 「大月に。そんな血に染まった顔を彼女に見せたことを、だ」 「わかったよ」 「それで、次にこうしろ」  大賀は俺の耳元でささやいた。  次に大月加奈子に会った時、俺はどうしたらいいかを――。
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