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ドリー
振り向くと美少女がボクの背中へ勢いよく飛び乗ってきた。
おんぶした状態だ。
「わァー! なんだよォ。いきなりィ」
思わず、ボクはびっくりして悲鳴を上げそうになった。まるでイタズラ好きな小学生のようだ。
「フフ、どうした。元気がないじゃん?」
ヤンチャな美少女がボクの背中で愉しそうに微笑んだ。
「ぬうゥ、何だァ。ドリーか?」
なんとなくわかっていたが、背中に飛び乗って来たのは幼馴染みのドリーという美少女だ。
身体だけは大きくなったが、やっていることは小学生の頃と変わらない。
本名は神崎ミドリと言った。
ドリーと言うのはボクがつけた彼女のニックネームだ。本人も気に入っているようだ。
「何よ。私じゃ不服なの?」
そのままバックからボクの首に腕を絡め、スリーパーホールドを仕掛けてきた。
「ベッ別に、そういうワケじゃないけど。よせよ。スリーパーは」
なんとか顎を引き頸動脈を絞められるのを防いだ。相変わらず天真爛漫な女の子だ。
この歳になって女子高生とプロレスごっこをするとは思わなかった。
「どうした。友朗。うなだれちゃって! 彼女に振られたか? ひとり寂しく深夜のソロ活動するのかァ」
可愛い女の子のクセにガサツな男友達みたいな喋り方だ。
「別に彼女に振られたワケじゃないけど」
説明するのを躊躇って口ごもってしまった。
「けど、なんだよ。お姉さんに相談してみろよ」
「お姉さんって。同じ歳だろう」
「いいから相談しろって聞いてやるから」
「ウン、ちょっとね。学校を退学になりそうなんだ」
なんとなく居心地が悪い。背中にドリーの胸の膨らみが感じる。
「ええェッ、マジかよ。高校中退か。何やったんだよ。夜中に学校に忍び込んで、校舎の窓でもぶち壊したのか?」
「するか。そんなこと。尾崎じゃないんだから。テストが軒並み赤点ばっかなんだよ」
「おおォ。やったじゃん。キャッキャッ」
ケラケラと笑って背中を叩いてきた。
「痛いよ。やってねえェッて。だから、退学したくなきゃァ婚活しろッて言われてさ」
「え、婚活ゥ。マジかよ。友朗が?」
「ああァ、ボクはドリーも知っての通り女性と話すのが苦手だろ」
「フフゥン、じゃァ私がリハーサルしてやろうか?」
「え、ドリーが?」
「そォ、ヒマつぶしにさ。どっかの地下アイドル以外の女の子と手もつないだことないだろう?」
「ンううゥ……、ほっとけよ」
まったくお節介な女の子だ。
どうせアイドルヲタのボクのことをバカにしているのだろう。
彼女は幼ない頃、近所に住んでいたのでよくおママごとにつき合された。
もちろんドリーがママの役でボクは子供とパパの役だ。だが高校へ進学してからは距離が出来た。彼女はアイドルのように可愛らしくてボーイフレンドも多い。選り取り見取りなはずだ。しかもかなり面食いだという噂だ。
ボクの男性の友達でも何人かが告白して撃沈したらしい。
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