私は何色?

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 拾ったピンクのモミジはあの四人は気が付かなかったらしい。持ってきていたビニール袋に入れて鞄にしまった。そしてお手洗いに行って念入りに手を洗う。  職業柄、こういうことがあるとつい手を洗ってしまう。野生動物の糞尿がついているかもしれないから、自然の物を触ったら絶対に手を洗う癖がついている。  しばらくしてみんなは戻ってきたけどどうやって取ったのかピンク色に染まった紅葉の枝を折って持ってきたみたいだ。私はチラリとそれを見てもう何も言わなかった。  みんなは私の言動が気に入らなかったらしく私がいないものとして会話に全く入れず目も合わせて来なくなった。そしてお互い挨拶なくその日はそれぞれ帰路についた。  翌日市役所に出勤した後に自然保護の会のメンバーにそのことを話しモミジを見せた。枝を折る彼らのことを怒っていたけれど、それよりもピンク色の紅葉が気になったみたいだ。 「ありますか、ピンク色に染まることって」 「聞いたことないけどな」  川守さんが興味深そうに覗き込む。彼は私が勤めている市役所の課長なのでお互いよくわかっている仲だ。半月前に別の市役所から配属となったばかりの日高さんはあまり興味なさそうだ。 「SNS映えしていいんじゃないっすかね」  ひょいっとモミジを手に取りまじまじと見ると「キモ」と言うとモミジを置いてどこかに行ってしまう。たぶん煙草かな。 「全然馴染まないですね、日高さん」 「都会のぼっちゃんだからなあ。田舎が気に入らんのだろ」  日高さんは都心から来たのだけど、どうやらあちらで何か問題を起こしたらしく左遷のような形で配属替えされたらしい。簡単に解雇できないご時世なので、問題児を押し付けられた感じだ。配属初日からブスっとして不満そうだった。 「まあいいや。こっちに話戻すけど、見て見ぬふりはできんねえ」 「もしかして、病気では?」  私の意見に川守さんと他のメンバーはうーん、と考え込む。  病気によって色が変わってしまうのはよくある話だ。そういえば山全体がなんだか枯れているように思えたと伝える。 「確かに秋だからみずみずしいとまではいかないけど。でもまるで冬の樹木みたいというか、何か病気だったと思うと納得いきます」
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