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木はデリケートだ。長年ずっと生え続けるから強いと思われがちだけど。虫や微生物によって中がスカスカになってしまうし、地球温暖化の影響なのか気温の変化で成長が遅いものが今増えている。
「気になるからちょっと調べてみようか。そこの観光地の役所に許可をもらって山に入ろう。アヤちゃん」
「はい?」
「君はこの地域の山の観察ポイントを見てきてくれるか。同じような症状がないかどうかは早めに見ていたほうがいいだろう」
「わかりました」
こういう指示の速さはさすがだ、後手にならないように予防措置がとられている。
それぞれ作業分担して動き始めた。私は言われた通りこの地域で観察をしているポイントを何箇所が回ってみることにした。
車を走らせて何箇所か見てみたけど特に変わった事は無い。数日かけてまわり最後の山、私が子供の頃よく遊んでいた山に入ったときに私は自分の目を疑った。
そこにはピンクに染まった紅葉が一本生えていたのだ。
その異様な光景に私はしばし呆然としていた。まるで桜が咲いているかのように綺麗なんだけれど……。美しいというよりもどこか恐ろしい。
とりあえず自分を落ち着かせるために持ってきたお茶を飲む。薬臭さは鼻からツンと突き抜ける感じがして頭がすっきりした。
写真を撮ったり落ちている枝を集めたり、ピンク色の部分を重点的に集めてピンセットでつまむと採取用袋に入れる。そして幹などを見ればその異様さがわかる。
枯れているのだ。紅葉しているのが不思議なくらい。たぶん冬には折れてしまうだろう。
戻ってくると今日はまだ誰も帰ってきていなかったので、微生物の可能性を探すため顕微鏡のある部屋に行った。そのタイミングでスマホに通知が来る、アプリだ。見ればこの間のメンバーである男子からでモミジをSNSにあげたら加工だろ、って誰も信じてくれなくて軽く炎上したと愚痴が来ている。
ああそう、大変だね。それだけ返すと既読はついたけど返事は来なかった。私は話にのるから愚痴を言いたかったんだろうけど、私がそっけない返事をしたのであちらも同じことを考えたみたい。
こいつとは、もう切った方がいいな、ってね。いいよ、別に。
光学顕微鏡で見てみると、そこには確かに何らかの微生物が見える。そのことに私は違和感を抱いた。
「普通の微生物? 真菌類じゃなく?」
木を弱らせる、成分分解してしまう菌種は確かにいる。ただしそれは真菌類、つまりキノコなど胞子で増える生き物だ。今見ているものはどう見てもただの細菌類。
葉がピンク色になっているという事は植物の色素が変化したと言うよりも、この微生物が増殖する過程で副産物として色素を生成している可能性は十分にある。
ピンク色に染まった部分の葉を水で洗い流してみるとあっさりと色落ちした。間違いない、植物が染まっているのではなく微生物の産生する色素がついて染まって見えているだけだ。
そのことをメンバーに連絡をしなければ。わかったことを全員共有で使っているチャットツールに打ち込もうとした時だった。
「アヤちゃん」
突然声をかけられて私はびっくりして飛び跳ねた。振り返るとそこにいたのは川守さんだ。
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