私は何色?

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「びっくりした、いつ帰ってきたんですか」  おおらかでいつもニコニコしている川守さんとは二まわり位歳が離れている。市役所も女性が少なく、この保護の会で女性は私一人だからだいぶ気にかけてもらっているという自覚もある。いつもと違って今の川守さんはひどく真剣な顔をしていた。 「お茶飲んでる?」 「へ? あ、はい。バクメイ茶ですよね?」  いきなり何だろうと思ったけど私は自分のマグボトルを指差す。川守さんは小さくうなずいた。 「君が優秀なのはわかっていたけどまさかこんな短時間に答えを導き出せるとは。いつ話そうかと思っていたけれどもう頃合いだ」 「え?」 「高校卒業してもこの地域を助けたいとここに残って、いろいろ尽力してくれてる。お年寄りが一人にならないように休みの日もいろんな家を回っているそうだね」 「あの……何の話をしてるんですか」 「ごめんごめん、怖がらせるつもりはなかったんだけど。君が今調査を始めようとしているその紅葉がピンクに染まる現象、我々は把握しているよ」  一瞬何を言っているんだかわからなかった。というか我々って一体誰のことを言ってるんだろう。 「君には詳しく話したいからちょっと来てもらえるかな」  言い方は優しいけれど拒否を許さない雰囲気だった。極力優しい雰囲気を装っている感じだ。私は小さくうなずいて川守さんの後についていた。やってきたのは公民館だ。入り口には地域の人が置いて行ったらしいバクメイ茶の原料、と書かれた箱が置いてある。たぶん中に野草が入っているのかな。  ここは小さな資料室がある。川守さんはそこに入ると一つのファイルを取り出した。 「詳しい話をすると長くなっちゃうからかいつまんで説明するね。その菌はかなり昔からこの地域にいるんだよ。夏が比較的涼しくて秋が早まった時、極稀に大増殖して色素産生する」  そこには研究者が残したとしか思えないかなり専門的な分析結果が記されていた。聞いたことのない菌の名前だ、かなり細かいことが書かれているようでちょっと私には内容がわからない。 「この菌がいると木が枯れて困ってしまうのでは?」
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