私は何色?

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 そんなバカな。植物に影響のあるものが人間に影響出すなんて、ウィルスよりひどいじゃないか。私はガタガタと震えだしたけど川守さんは余裕の表情だ。 「十年位前にピンクの紅葉を見つけたんだ。あの頃は人に影響はないって思ってたから詳しく調べようと枝を切ってきたんだよ。その時にどうも体に入り込んだみたい。爺さんたちにこっぴどく怒られた。でも大丈夫、お茶を飲んだから」  バクメイ茶? あれってヨモギとかこの地域にある野草を使ってるお茶だって聞いてるけど……まさか。 「ここに住んでる人は昔から菌の存在を知っていたし、身を守るにはどうしたら良いかもわかっていたんだ」  子供の頃はお茶の味が苦手だった。でもおじいちゃんたちから絶対にこのお茶を飲むようにって言われて育ってきた。風邪ひいた時とか特に飲みなさいって言われてたけど……まさか。 「ピンク色は異常増殖している時だ。そんなものは折ったり切ったり、絶対に木から切り離したらダメなんだよ。菌だって死にたくないから次の栄養素を求めるに決まってるでしょ? その対象物が弱っていたら増殖しやすい」 「そ、れは……」 「バクメイ茶の原料は、この地域の野草だけ。野草はね、無限にはないでしょ。僕らが飲む分くらいなんだよ、採取できるのは」   「アヤちゃんおかえり」  事務所に戻るとみんな帰ってきていた。調べに行ったところはピンクに染まっているところはなかったそうだ。 「一回、一息入れませんか」  市役所の総務のおばさんから頂いたどら焼きと、バクメイ茶を入れてみんなの前に差し出した。日高さんは、少し眉間にしわを寄せている。 「俺水でいい。そのお茶不味すぎて飲みたくない」 「そうですか」  どら焼きだけ食べる日高さんと、真っ先にお茶を飲み始める皆。私も、わずかに震える手でお茶をとる。それを見て、皆笑顔だ。 「そういえばアヤちゃん。ピンクのモミジ持って行ったお友達とは連絡とってるの?」 「え、まあ一度連絡ありました、男子から……」  皆の目つきが、鋭い。……わかってしまった。  今、私は踏み絵を試されているんだ。川守さんの言葉が頭をよぎる。  材料は無限にない。「僕ら」……この地域の人が飲む分だけだ。大勢に分け与える分なんて、ありはしない。 「アヤちゃん、無神経になっちゃったその人たち本当に友達と思ってる?」 「え……」 「お友達はここを出て都会色に染まったらしいけど。君もその色に染まっちゃうかな」 「これからも友達に会いに行くの?」 「君は、何色?」  私は――。 「都会色に染まった彼らは、私の友達じゃないです」  ああ、私も染まったなあ。この地域の色に。何色なんだろう。   「はあ? 何それ、都会の人は悪いっていいたいの? 感じわっる。俺に対するパワハラ?」  ごちゃごちゃ言い始めた男を無視して私はお茶を飲む。ちらりと見れば、彼の後頭部の生え際に一束ほどピンク色の毛が見えた。  ピンクは色素だから、髪を洗えば落ちてしまう。気付くのは遅くなるだろう。――誰も指摘しないだろうし。それは、友達だった彼らも同じだ。毎日髪を洗うだろうから気づかない。  一口、お茶を飲む。苦味と薬臭さがスゥッと体に馴染んだ感じがした。  何色かな、私。しれっと存在するあの菌の色だろうか、それともこのお茶みたいに、泥水みたいな焦茶だろうか。 END
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